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「記憶のペンダント」改訂版

※こちらは、2020年7月のオンライン個展内で発表したファンタジー私小説に修正を加えたものです。


記憶のペンダント


物理的に所持できないタイプの宝石がある。

そんなもの信じられないって?
でもあるんだよ。
見てみたいと思わない?
見たかったら、自分で手に入れるしかない。

方法は意外と簡単。
まずは心の中に記憶の宝石箱を作ること。
そして、その中に閉じ込めること。


わたしは綺麗なものが好き。
今まさにこの瞬間「綺麗なもの」を見つけてしまった。
それは、現在目の前にいる男の瞳。


わたしたちは小さな部屋の中。
窓から差し込む夕日を写してキラキラと光る男の瞳は、熱をかけてクラックした薄茶色のビー玉。


その瞬間、記憶が蘇る。
子供の頃、そういえば誰かが言っていた・・・

「本当に心が綺麗な人の白目は、濁っていない。
白というより、とても淡い青。
生まれたての赤ちゃんの白目も、そういう色をしているよ」

本当だろうか。
思わず男の眼球を見つめてしまう。
確かめようと試みるが、よくわからない。
それでも瞳は美しく光を放ち続ける。

この人の目をずっと見ていられたらいいのに。
そう思いながら男の右目を記憶に閉じ込めてそっと盗む。
宝石箱に入れて鍵をかける。
薄茶色のガラス玉を持ち帰ったわたしはそれに金具をつけ、革紐を通し、ペンダントを作った。
それからというもの、大切に箱の中にしまったり、たまに取り出しては眺めたり。

ガラス玉は徐々に姿を変えていき、あの日の夕焼けをそのまま写し取ったような琥珀になった。


過去に浸り過ぎると、人は戻ってくることができなくなる。
けれども、ほんの少しだけ大切にとっておきたい「いつかの出来事」は誰にでもあったりする。

この思い出が綺麗なものになればなるほど、琥珀は美しさを増していった。

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