微炭酸(捧げる)


久しぶりに再開したアイツは、
あの時と変わらない、長い睫毛に白い肌、そして甘い香りを纏っていた。


黒髪だった頃のお前は校内のマドンナなんて言われるくらい陶器みたいな、今にも崩れそうな、美しい立ち姿をしていた。俺はそんなことにも気づかず、チャリでお前を連れ回して、駅前のクレープ屋でお決まりのいちごバナナ、コンビニでチョコレートの棒アイスを買っては最寄りの公園のベンチで掛けながらダラダラと過ごしていた。
トマト味の氷菓アイスが出た時、俺はあり得ないと言いながらもお前はルンルンとレジへ持っていき、溶ける前に待ちきれずサドルの上で袋を開けて頬張っていた姿が鮮明に残っている。口を押さえて目を見開き「うっま!」なんていう姿に
俺はやはりあり得ないと思いながらもお前の笑顔につられて微笑み返したのを今思い出した。


校内の奴らにお前ら付き合ってんじゃねえのかなんて囃し立てられたこともあった。俺はそれが現実になれば良いのにと思いながらヘラヘラしていたが、お前は満更でもないようなきょとんとした顔をして、「こいつとー?」だなんて可愛い顔をするから俺はこんな真っ白な想いをただ無かったモノにすることにした。


俺たちは二十歳。成人式のおまけと言わんばかりに高校の同窓会が行われた。
そういえば高校を出て俺たちは、連絡さえも取らなくなった。卒業式に俺たちどっちが先に結婚するんだろうな!なんて話をした。俺は何故か、苦しくなった。心臓が掴まれて、掴まれた手のひらに力を込められた感覚がした。これがなんだったのかは、今まで気づくことはなかった。

そして今、目の前にはあの時と変わらないお前が居る。変わらないと言っても、黒髪だったお前が、またその肌の白さを際立たせる様な美しい金髪に染め上げたことは変化だ。またそれが煌びやかで、俺の心を騒つかせることに気付かないお前も、お前らしかった。

式の最中、
片手に紅色の酒を持ってこちら近づいてくるお前は、なにか、貴族を、姫を思わせた。

あぁこのままこいつを酔わせて。酒のせいにして。寝ている間に俺は去って。何も無かったことにして。俺だけが満足を感じて。ただお前と快楽に溺れて。お前と俺しかいない世界を創り上げたい。

だなんて、刹那的思考に陥った俺は、もう既に酔っているのかもしれない。この酔いさえもお前のせいにしたい。

あの時感じた苦しさはいったい何なのか。
今ならわかる気がする。
たった、制服を脱ぎ捨てた2年だが、俺たちはもう変わったんだ。あの時俺がこの感覚に気づけば今、俺たちの関係は変わっていたかもしれない。

あの時知らなかった夢を、ただ純粋に隠されていた白い心を失った今、今更お前に伝えたところで何か変わるだろうか。


もうワイングラスが重なりそうな距離までお前が迫っている。

久しぶり。
おう、久しぶり。
なんか、かっこよくなったね。
お前は変わらないな。
それどういう意味?

黄金に輝く髪を靡かせて、お前は笑った。

お前に飲んで欲しい酒があるんだ、2人で飲み直さない?
ん?何それ気になる
「エンジェルキッスっていう酒なんだけど」




end

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