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<燕岳>雪が残る急登を越えた先に望む圧巻の大パノラマ

5月の連休に日帰りで「北アルプスの女王」と呼ばれている燕岳(標高2763m)に登ったときの回顧録。



長い急登を越え、展望が開けた場所に出ると、いよいよ燕岳頂上が間近に見えてきた。燕岳頂上の天を突くその山容は端麗な姿であった。「やっとだ」目標を捉えると、進む足に力が戻ってきた。時計を見ると朝の6時に登り始めてちょうど5時間が経過していた。

ここに至るまでの道中も常に風に抵抗しながらの歩みであったが、ここではさらにいっそう強烈な風が身体を打ちつけてくる。5月とはいえ燕岳の標高は2763m、真冬のような冷たい風が体温を奪っていく。僕は時々震えては寒い寒いと言いながら手の平をこすり合わせた。穏やかな風だったらこの稜線を気持ちよく歩けただろうが、ここまで激しいと、押し戻されまいといつも以上に力を使うため、体力をどんどん削られていく。そして酸素の薄さも手伝って僕は息が上がりやすくなっていた。少し進んでは休んでを繰り返す。頂上はもうすぐなのに、なんだかもどかしい。

燕岳頂上には二人いた。二人とも寒さに顔をこわばらせ、この荒れ狂う風に四苦八苦しているようだ。僕自身、そよぐ風が吹き渡る青空の下、ゆっくり珈琲を、なんてことを思っていたが、そんな状況ではない。僕はぐっと足を踏ん張る。油断したら頂上から滑り落ちる危険性があるから気が抜けない。

2763mの頂上からの展望は、さすがアルプス、スケールがでかかった。ここまで長い時間をかけて登ってきた達成感を噛みしめる。取り囲む山々は鋭利にとがり穏やかさとは対照的だ。視界の先には槍ヶ岳が望める。その鋭く尖がったフォルムは他の山よりも取り分けて目立っていた。あの山に以前登った記憶が蘇った。こうして離れて槍ヶ岳を見るとそこに登ったという事実が信じられないくらい険しい形をしている。あんな高いところによく登ったものだ。長い道のりに嫌気がさし、何でこんなところに来てしまったんだと歩きながら自分を責めていたっけな。

景色を十分に堪能した後、少し歩いた先にある燕山荘で暖かい豚汁を食べて冷え切った身体を暖めた。身体が温まるにつれ、緊張感と疲労で固まった心身がほぐれていくのが分かる。そして、山荘内でコーヒーを飲みながら一息つく。山荘内には登山客の賑やかな声が心地よく響いていた。スタッフは登山客を丁寧な対応と笑顔で迎えてくれている。良い雰囲気だなと思った。この後下山して今日の登山は終わってしまうが、今度は是非この山荘に泊まってみたいと思った。それに、きっとここから望む朝日は得も言われぬ美しさだろう。

風は依然、勢いを弱めない。大迫力のパノラマをもう一度見渡して、押し出されるように僕は下山の途についた。

◆Photo Gallery by Leica M-E

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