NPOは「対価」を用いた寄付募集ができないのに、ふるさと納税を使えば可能になることの是非について

2024年1月5日
(1/7微修正)

この記事の補足です。
寄付には現物寄付等もありますが、以下で述べているのは主に現金での寄付を指しています。

① NPOの寄付募集に関する「対価」提供の制限

  • 以下2つの資料が優れていますので、興味がある方はご覧ください。

https://www.npokaikeikijun.jp/wp-content/uploads/kifu-taika-paper.pdf

  • 原理原則の話ですが、寄付という行為は無償で行われる行為を指します。よって、対価がある場合は寄付と認められません。

  • これは別にNPOへの寄付に限った話ではありませんが、わかりやすく定義されているのでNPOを事例に見ていきましょう。

  • まず内閣府のNPO法のQ&Aを見てみましょう。質問内容自体は認定NPOの認定基準についてのものですが、寄付の対価性をどのように判断するかが書かれています。

3-2-13
認定NPO法人等が、「寄附金額が1,000円の寄贈者には粗品Aを、寄附金額5,000円の寄贈者には粗品Bをお渡しします。」という寄附募集を行っている場合、当該寄附募集において受領した1,000円ないし5,000円の金銭をPST上の受入寄附金総額に含めることができるのですか。寄附金に該当しない場合、金銭の提供者は所得控除や税額控除の適用を受けることができないことになりますが、領収書の発行及び内容についてはどのようにしたらよいですか。 【第45条1項1号】

当該事例は、粗品の取得を目的として金銭を支払ったとみなされ、「対価性がある」と考えられます。
なお、税制上の優遇措置の適用の対象とならない金銭の受領に際して発行すべき領収書は、通常、一般的な金銭の受取りを証するものであれば、差し支えないものと考えます。

内閣府NPO法Q&Aより
  • もう1件、今度は法律ではないですが、NPO会計に関する考え方が示されているNPO会計基準より。(長いので読み飛ばしてください)

13-4 寄付に対して返礼品を提供する場合、受取寄付金として計上することができるでしょうか。
A:寄付とは、「(1)支出する側に任意性があること、(2)直接の反対給付がないこと」という要件を備えているものです。寄付を受取った場合にお礼として返礼品をお返しするような場合に、その返礼品が「直接の反対給付」と言えるのかどうか、ということが問題になります。
 寄付を受けたNPO法人が、寄付をいただいた方に感謝の気持ちを形にして示すことがあります。感謝の気持ちを示す方法として、お礼状を出したり、活動報告を送るなどの方法も考えられます。また、寄付を受けたNPO法人が普及啓発のために作成していたグッズや、自身の団体の活動が紹介されている書籍などを送るということも考えられます。感謝の気持ちを表す方法は様々ですが、寄付者にそのNPO法人の活動を支援したいという気持ちがあり、それに対してNPO法人が感謝の気持ちを形にして示すということは、寄付者とNPO法人とのコミュニケーションを広げ、NPO法人の支援者を増やしていくことにつながりますので、返礼品があることをもって、直ちに「直接の反対給付がある」ということにはなりません。
 一方で、返礼品の金銭類似性や換金可能性が高い場合や、一般的な使用価値が高い場合は、NPO法人の活動との関連性や、寄付額と返礼品の価格の割合などを含めて、NPO法人が行う寄付活動が、返礼品の提供による資金の獲得を意図している活動と推定される場合があります。こうした場合には、寄付金として処理することはできず、物品販売の対価(事業収益)として処理することになります。
 具体的に、返礼品が直接の反対給付と考えられ、返礼品の提供による資金の獲得と推定されるかどうかについては、以下のようなポイントを参考として、総合的に判断する必要があります。

(1)返礼品の金銭類似性や換金可能性が高い場合や、一般的な使用価値が高い場合
 プリペイドカード、商品券、貴金属など金銭類似性が高いものや、電気・電子機器、家具など、一般的に使用ができて使用価値が高かったり、転売によって換金することが容易である場合には、実質的に寄付のキックバックになり、寄付の感謝の気持ちを形にして示す返礼品としてはふさわしくないと考えられます。

(2)返礼品がNPO法人の活動とは関連性がほとんどないものである場合
 特に、使用価値や転売による換金可能性が高いものであって、NPO法人の活動と関連性がほとんどない場合には、返礼品は感謝としての気持ちの表明ではなく、返礼品の提供によって入金を得ようとしているものと推定される可能性があります。

(3)寄付額に対する返礼品の調達価格の割合(返礼割合)が高い場合
 また、社会通念に照らして、NPO法人が受取る寄付金の額と比較して、返礼品の調達価格が高い場合には、返礼品提供によって入金を得ようとしているものと推定されてしまうことがあります。

NPO会計基準Q&Aより
  • 以上の通り、NPOが単独で自身と関連が薄い返礼品の提供による資金の獲得を意図した場合は、寄付者は税控除を受けられませんし、受け入れた資金も収益事業収入として納税対象になります。

  • 要は実施するのは難しいということですね。

  • 対価の伴う寄付が非課税事業収入にならないという考えはNPO以外の公益目的の任意団体や一般社団法人の収入もそうです。

② ふるさと納税の「寄付」としての性質

  • ふるさと納税も「寄付の対価」を認めないという原則は例外ではなく、返礼品はあくまでも自治体の「お気持ち」という扱いです。

  • 「お気持ち」の範囲は寄付金額の30%までとかなり大きく、実質的には「対価」なのですが、まあそういうものですから仕方ありません。

  • 自治体が自身で返礼品を設定して寄付を集めて、自治体のために使うのであれば別に「それはそれでいいか」という感じではあります。

  • またNPO等への支援についても、『自治体が』集めた資金をNPO等に交付金として振り分ける分は別に構わないと思います。

  • しかしながら、一部自治体ではNPO等自身が独自の返礼品を設定することを認めています。

元記事から再掲
渋谷区。
参考までにもう1例。
私が知る限り一番派手な佐賀県の事例
魅力ある返礼品がいっぱい
  • 外形的には消費者から集まった「寄付」は自治体へ向けられたもので、自治体はそれを原資にしてNPO等に交付金を別途支給するという立てつけではありますが、「魅力的な返礼品があります!」で寄付を募る場合はどう見ても実質的に資金が集めたのは返礼品を送るNPO等ですよね?という話です。

  • NPO等が寄付を集めるにあたって「対価」に該当する返礼品は認められませんが、ふるさと納税を介した場合は寄付額の30%までは返礼品という実質的な「対価」を送ることができるのは妙な話です。

  • ふるさと納税の寄付先に指定されたNPO等は返礼品を活用できるため、他の団体よりも有利に資金を集められるということになります。

③ 補足

  • 上記は主に返礼品ありのふるさと納税のことを扱ってますが、返礼品を抜きにしてもふるさと納税による集金は効率が良いです。

  • 認定NPOへの寄付は控除を受けられますが、ふるさと納税よりも控除率は悪いです。

  • また、認定NPO以外のNPO、一般社団法人、任意団体等への寄付はそもそも控除の対象になりません。ふるさと納税を介せば控除を受けられますし、返礼品があれば二重にお得。

  • ふるさと納税の趣旨は寄付対象の「自治体を応援」することです。返礼品の有無に関わらず、特に大手のNPO等が大々的に広告を打ってインフルエンサーを動員して単なる活動資金(特にその自治体に関連しない活動のための資金)を募ることについては特に慎重に判断されるべきでしょう。

④ まとめ

  • ふるさと納税を使えば対価を提示して寄付を募ってもオーケーになる仕組みについて、NPO等への本来の意味での無償の寄付文化を壊すことに繋がると批判的な見方も多いようです。

  • 「ふるさと納税を通して寄付をすれば返礼品ももらえるし、有利な控除も受けられる。控除が不利な認定NPOへのただの寄付や、そもそも控除されない普通のNPO、一般社団法人、任意団体への寄付なんて馬鹿馬鹿しい」と考える方が多くなれば、ふるさと納税に参加できないNPO等へ資金が集まらなくなるかもしれないという危惧は理解できます。

  • ふるさと納税の「自治体を応援」という趣旨を満たさない、単に活動資金集めのツールとしての脱法的な活用が許されてしまうと、自治体に無理を通すパワーを持たない団体の資金調達が非常に難しくなります。

  • そういう脱法行為を許容して行き着く未来は、行儀の悪い少数の大手団体による、公金や寄付金などの慈善資金の寡占です。

  • 昨今のふるさと納税に関する話題を考える上で、一応知っておいた方が良いと思いましたのでまとめました。

以上

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