お遍路ー総括③

私は四年ほど前、長野県の女性と付き合っていた。ゲレンデでナンパして、そのまま意気投合して遠距離だが付き合っていた。
当時私は大学生で、彼女はアパレル店員だった。彼女は高校の時から年齢を誤魔化してスナックでバイトしていて、高校卒業とともに東京に出ていったのだがうまく馴染めず一年ほどで故郷の長野県に戻ってきた。
私とは生まれ育った環境が根本的に違っていて、彼女の行動に驚くことも多々あったが新鮮で面白かった。
しかし、遠距離は結局うまくいかずスキーシーズンが終わるとともに会う頻度も減っていき梅雨前に振られた。

お遍路で四国の田園地帯を運転していると不思議と彼女のことが思い出された。別れた当初こそ未練たらたらだったが、時間と共に彼女のことを忘れていったのに、頭にふと彼女との幸せな思い出がよみがえってきた。
田園地帯の風景と四国の山々が、彼女のいた長野の風景と重なったのだろう。

彼女は私とは根本的に違う人間だった。助手席に乗せてもシートベルトをすることを嫌がり、セックスの時は私がコンドームをつけることを嫌がった。酔っ払うと喧嘩っ早くなりコンビニの店員にも喧嘩を売る始末だった。
ただ、すべてにおいて素直な子だった。嬉しい時は嬉しいと言い、好きなことは好きとはっきりと言う。私は周りの目を気にして彼女に抱き着かれてもこっぱずかしいくて堂々と彼女を抱き上げることはできなかった。

彼女は生について常に全力で素直だった。私は世間体などを気にして、様々な人のことを慮って、気を揉んで、結局息苦しくなっていた。
四国の雄大な自然を見ていると生きることに全力だった彼女の美しさをふと思い出した。

春一番
男はつらいよ
鹿島立ち

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