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折々のチェスのレシピ(番外編)「Rapid」か「Blitz」か

多くの人はネット対局をする時に「Rapid」か「Blitz」の持ち時間で対戦していると思います。チェスを指導する人の中には、スコアが低いうちは持ち時間の短い「Blitz」を勧めない人もいます(というより指さないように指導します)。

それには一理あって、持ち時間が短い対局では、それなりの知識と経験がないと、ただやたらめったら駒を動かしているだけになってしまい、有意義な経験が積めないと考えるからです。

「Blitz」で対局する際、例えば、黒の場合、

第1図

せめてこの局面ぐらいまでは、目をつぶっていても機械のように指せないと時間が足りなくなってしまいます。

この「折々のチェスのレシピ」を書いている人は、「Rapid」も「Blitz」も指します。「Blitz」のほうが100点超ほどスコアが高いです。それは早指しが得意というより、単に相手が間違うことが多いせいだと思います(自分もミスが多くなります)。

また、「Blitz」には「Blitz」の戦い方があるのも事実です。具体的には、相手がよく知らないであろう戦型を選択することも、そのひとつです。その意味では、しばらく前にご紹介したダニッシュ・ギャンビットなどは、「Blitz」に向いている序盤定跡かもしれません。

一例ですが、

この対局で白は20秒ほどしか時間を消費していません。

難しいのは黒(後手番)の時です、黒はまずは受けてどこかでカウンターを繰り出すという方針が基本だからです。攻撃的な定跡もあるにはありますが、「折々のチェスのレシピ」を書いている人が分析した限りでは、どうも使えません。ということで、「Blitz」でも「Rapid」でも黒の時には同じ戦型を採用します。第1図は、白が初手d4ときた時に、Nf6とする出だしの中盤です(d4 - Nf6については「チェスのレシピ」か「新・チェスのレシピ」でご紹介しています)。

「Blitz」で対局する時、第1図まで機械のように指すことができても、まだ足りません。もっと先まで研究して定跡化しておかないとなかなか勝つことができません。そういう意味で「Blitz」を指すことがそんなに悪いとは思いません。なぜなら、相当の事前研究がないと勝てないからです。「Blitz」を指したくて事前研究に力を入れれば、持ち時間が長い「Rapid」にもいい影響があるでしょう。

持ち時間が短い「Blitz」を指す際には、集中力が極限まで高まり、アドレナリンが噴出するような体験をします。それはどこかギャンブルと似ているかもしれません。研究をせずに「Blitz」を指すと、たしかに手が荒れると思います。その場その場で思いつきで指していても、おそらくチェスは上達しないでしょう。瞬時瞬時で正い判断を下し、無謀ではなく勇気をもって決断できるためには、それなりの知識と経験の裏付けが必要になります。

「Blitz」にはいいところがあって、それは、短時間にうちに自分の課題が見つかるということです。勝っても負けても一局を終えてどこでどう指せばよかったかをすぐにあぶり出すことができます。負けた対局を振り返るのはいわば当然ですが、「折々のチェスのレシピ」を書いている人は勝った対局を見直すことをお勧めします。なぜなら、勝った対局であっても、もっとうまく勝てた手筋が存在したかもしれないからです。それが発見できたら、自分の宝になります。

ということで、「折々のチェスのレシピ」を書いている人は「Blitz」を否定しません。ただ、指す際には、自分のスコアにかかわらず、白と黒で最低でもひとつこれは自分の形であるという戦型を作ってからにしてみてください。自分の戦型とは、相手がどんな対応をしてきても、初手から十数手は指し方を把握しているレベルのことです。


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