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6月はプーシキンの詩⑧

      カフカス

カフカスが私の足もとにある。高みに一人
断崖の先の雪の上に立っている;
鷲が、遠くの高みから舞いあがると、
私とならんでじっと動かずに 思いにふけっている。
ここから私には見える 噴流の出現と
おそるべき崖崩れのはじまりの動きが。

ここでは 私の足もとを黒雲がおとなしく過ぎていく;
黒雲を通りぬけて、いくつもの滝が落下して音をたてている;
滝の下には 削られてむき出しになった岩の塊;
より低いあそこには やせた苔、枯れた灌木の茂み;
またあそこには すでにいくつもの林が、緑色におおわれている、
そこでは鳥がさえずり、鹿が跳びはねている。

またあそこでは すでに人間も山あいに住んでいる。
そして 穀草の豊かな断崖の斜面を 羊がゆっくりと進んでいる、
そして 牧夫が明るい谷間へむかって下りていく、
そこでは 日陰の濃い岸辺のあいだを アラグワが疾走していく、
そして 貧しい騎乗者が峡谷に隠れている、
そこでは テレクが猛烈に陽気な気分でたわむれている;

たわむれ、そしてまるで 若いけものが、
鉄の檻から遠くに食べ物を見つけたように吠えている;
そして 無益な敵意をもって岸を打っている
そして 飢えた波で切り立つ岩をなめている…
むだだ!テレクに食べ物はない、慰みもない:
おそるべき もの言わぬ塊がテレクを押し返している。

                  (1829)


註:1829年5月から8月にかけて、カフカスを旅した時の印象が描写されている。清書された手稿(1908年以後に紛失)には、最後の連と日付の後に続いて、もう一連が始められていた:

このように 荒れ狂う自由を法が押し返している、
このように 未開の種族は権力のもとで気がふさいでいる、
このように今 もの言わぬカフカスは憤激している、
このように 不思議な力がカフカスを支配している…

この連が書き上げられ、テキストに導入されていたならば ― この連は、カフカスの風景が描かれた叙情的な詩を、ツァーリの植民地政策に対する抗議を表明する国民的詩に変えていただろう。(カフカスの風景については《エルズルム紀行》第1章に描かれている)


     КАВКАЗ

Кавказ подо мною. Один в вышине
Стою над снегами у края стремнины;
Орел, с отдаленной поднявшись вершины,
Парит неподвижно со мной наравне.
Отселе я вижу потоков рожденье
И первое грозных обвалов движенье.

Здесь тучи смиренно идут подо мной;
Сквозь них, низвергаясь, шумят водопады;
Под ними утесов нагие громады;
Там ниже мох тощий, кустарник сухой;
А там уже рощи, зеленые сени,
Где птицы щебечут, где скачут олени.

А там уж и люди гнездятся в горах,
И ползают овцы по злачным стремнинам,
И пастырь нисходит к веселым долинам,
Где мчится Арагва в тенистых брегах,
И нищий наездник таится в ущелье,
Где Терек играет в свирепом веселье;

Играет и воет, как зверь молодой,
Завидевший пищу из клетки железной;
И бьется о берег в вражде бесполезной
И лижет утесы голодной волной...
Вотще! нет ни пищи ему, ни отрады:
Теснят его грозно немые громады.


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