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[Behind The Scenes]ある日のこと
あれは好き合ってはじめてのデートのとき。
「付き合って」ではないのは大変情けない理由だ。
大学二年の夏休み、ドライブデートの帰り道、相手の気持ちに気がついていた僕は、同じ気持ちだと打ち明けた。しかし僕はその二ヶ月前まで付き合っていた元恋人のことをまだ完全には忘れられていなかった。だから切り替える時間をください、それから正式に付き合ってください、そうお願いしたのだった。
そもそも切り替えられていないのなら、そんな話しをしなければいいのに。最低で、ずるい男だ。
JR町田駅前の商業施設の本屋に入った。
見た目の雰囲気と少し違って文学部で日本文学を専攻している彼女は、当然だがたくさんの本を読んでいた。僕も今まで読んだ本を挙げてみる。乾くるみ、東野圭吾、三秋縋。
「意外と本、読んでるんだね」
彼女は言った。僕もそう思った。
ふたりで「おぼんdeごはん」に入った。
おのおの定食を注文して、料理が運ばれてくる。
僕は味噌汁が好きだ。実家にいるとき味噌汁をおかわりしすぎて、祖母に「馬鹿の三杯汁っていうんだよ」とたしなめられたことがある。
定食についていた味噌汁は早々に飲み切り、ごはんももう無くなろうかというとき、ふと彼女が味噌汁にひとつも口をつけていないことに気がつく。
「味噌汁いらないの?」
ひょっとしたらもらえるかもしれないという、意地汚い下心を滲ませながら僕は聞く。
「私いつも味噌汁は最後に飲むの。」
彼女はそう答える。
聞けば、彼女は味噌汁は食事の最後に一気に飲むという。なぜだかそれが、僕にとっては不思議でたまらなくて、どうでもいいことかもしれないが妙に頭に残った。
彼女をJR横浜線の改札まで送った。横浜線も、彼女の最寄りの私鉄もほとんど乗ったことのない僕は、どういうルートで帰るんだろうかと考えながら、彼女の背中が見えなくなるまで見届けて、小田急線の改札口へ向かった。
約一年後、僕はJR横浜線で通勤していた。長津田駅を出ると、ほどなくして国道246号線と東名高速が見えてくる。
「この道を辿れば」
そんな空想に耽る。
JRは発車メロディーが多彩だ。山手線であれば駅ごとに違う曲が設置されている。しかし横浜線は上りと下で一曲ずつ。毎日何度も聞かされるその音に仕事の憂鬱は染み付いていて、空想という名の現実逃避を阻害してくる。
しかしそんな生活が二年以上続くと、悲しみも薄れてくる。虚ろげに車窓の外を眺めていた僕は、もういない。
それでもごくたまに国道や高速道路が目に入ったとき、「この道を変わらずふたりでドライブしている未来もあったのだろうか」と、ふと考えてしまう瞬間は、なくもない。
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