見出し画像

冬眠していた春の夢 第15話 外鍵のある母の部屋

 そして私はその夜、久しぶりにあの夢を見た。
 子供の頃の橋本さん、ハッチがそこにいた。
 そして、実在すると知った春馬とリョータも。
 これは夢なんだろうか?それとも過去の記憶?
 夢の中の少年たちが実在したことで、それまでの印象がまるで違うと、私は夢を見ながら思っていた。

 その後、ウラシマソウという不気味な植物のクローズアップがあり、春馬という少年だと思われる声が言う。
 「それ、ウラシマソウっていう毒草だぜ。触ると死んじゃうんだ」

 「イヤーーーー!」
 幼い女の子の恐怖の叫び声がした。
 そして、山の傾斜を転げ落ちる女の子。
 その瞬間、ガクンと落ちる感覚があって目が覚めた。

 ドキドキして起き上がってスマホを見ると、まだ夜中の2時過ぎだった。
 何これ?今のは何?
 あの女の子は誰?もしかして私?

 夢にしては臨場感があって、そのまま寝る気にはなれず、私はトイレに行って、その後1階のキッチンに行って水を飲んだ。
 父も母も当然寝ている時間だから静かだった。

 父と母は別々の部屋で寝ている。
 母は1階のキッチンの奥の部屋で、父は2階の廊下を挟んで私の向かいの部屋。
 父の部屋は、寝ている時以外はドアが開けっぱなしなので入った事があるけど、母の部屋は常に鍵がかかっていて、一度も入った事がない。
 母が留守の時も、母の部屋は外側から鍵がかけられている。
 私の部屋も父の部屋も外鍵なんてないのに。
 ずっと変だなとは思いながらも気にしていなかったけど、なんだか猛烈に気になりだした。
 だってそれは、誰にも見られたくないもの、隠したいものがあるからだから。
 母の部屋の中には、どんな秘密があるのだろう?

 水を飲んだグラスをすすいで洗いカゴに戻して、2階に戻ろうとすると、奥の母の部屋からうなされているような声が聞こえた。
 私は母の部屋のドアの前で、中の様子を伺った。
 「ううん…」という小さなうめき声は聞こえるけど、そこまで苦しんでいる感じもしなくて、声をかけるのは憚られた。
 そしてそのうち声がしなくなったので、私は自分の部屋に戻った。

 ベットに横になったけど、外が白み始めるまで寝つけなかった。
 橋本さんが、私の何かを知っているのは確かだ。
 そして、実在した春馬とリョータは、今どうしているのだろう?
 なんとなく、開かずの母の部屋の秘密と、それらは連動しているような気がした。本当にただなんとなくだけど…。


 第16話に続く。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?