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キャリコン的ジョブ型雇用論(2)

お疲れ様ですキャリアコンサルタントのタケシマです

鶴光太郎著『人事の経済学』の後編です。前回の記事ではジョブ型雇用という言葉の混乱を概念整理し、その上でなぜ日本の会社が広義のジョブ型雇用へシフトする必要があるのかについてレビューと感想を書きました。

今回は本書の構成では後半部分にあたるところでして、ではどうやってジョブ型雇用制度を導入するのか、理論と実践を融合した議論が展開されます。

なぜジョブ型雇用への移行は難しいのか

(1)後払い賃金制度への執着。日本では多くの場合定年制があり、賃金を長年低く抑えつつ退職金で帳尻を合わせ定年後の生活保障をするというトータル賃金システムを変える必要がありその変革への抵抗は強いものがあります。ジョブ型雇用制度の場合は職務が変わらない限りフラット給与であり賃金体系を抜本的に見直す必要がありますが相当困難でしょう
(2)労働組合の抵抗。メンバーシップ型無限定正社員制度と企業別組合は切っても切れない相互補完関係にあり、労働組合は無限定正社員の処遇を守り抜くことが目標になっているので構造的に変えにくい状況です

ジョブ型雇用制度への移行戦略

ではどうやって変革をするのかまず、著者の鶴光さんは思考実験としてあえて過激なビッグバン・アプローチを提示します。
(1)「入口」の破壊。新卒一括採用をやめる、禁止する。これにより「空白の石板」としての新卒採用はなくなり、専門性を持った中途採用がメインになる。しかしこれは大学教育(特に文系)の改革から必要とするため、実現は容易ではない。
(2)定年をなくし「出口」を破壊する。これによりトータルで生活保障する賃金制度は維持できなくなる、しかしこれも導入ハードルは高いだろう。

漸進的アプローチ:途中からジョブ型戦略

入社時点は無限定正社員として採用し、10年ぐらい経過後に雇用形態を複線化、幹部を目指す無限定正社員をショートトラックで引き上げ、ジョブ型雇用の社員と分ける。これにより、ビッグバンのような過激な施策ではなく現実的にワークする導入が可能

企業と従業員関係の大変革

前回述べた、マクロ環境の変改、労働環境の変化、資本環境の変化、テクノロジー環境の変化。この4つの変化に対応できる企業は常にイノベーションを起こしながら成長する企業である。そのために必要なことは

(1)ジリツ(自律/自立)人材の採用、育成、評価
(2)組織内人材の多様化とパーパス経営の推進
(3)従業員のウェルビーングの向上

以上のような戦略で広義のジョブ型雇用制度の導入をすべし、というのが本書の内容になります。非常にロジカルで理論と実践がバランスよく解説されている良書でした。

キャリコンとしての感想、雑談

前回申し上げた通り、私は経済学思考が好きなので本書はかなり頭がすっきりしながら読めました。ジョブ型雇用という言葉がよく言われますが、本書の言うように最もラディカルなモデルでは新卒採用の中止、職務内容、勤務場所、労働時間の明確な契約、定年の廃止、後払い賃金制度をやめる、、などが必要になります。

皆さんの所属する会社ではどうでしょうか?ジョブ型への移行と言いつつも、新卒採用をやっていたり、転勤はあったり、退職金で帳尻をあわせる仕組みだったり、定年制があったりしていませんか??
もちろん、鶴光さんも言うようにビッグバン・アプローチは身体中の血の入れ替えであり実現性には乏しいです。しかしながら経営層や人事部門はラディカルなモデル=究極のゴールを知った上で漸進的ロードマップを作る必要はあると思います。
そうでないと、名ばかりジョブ型制度になってしまい本来の目的である環境変化に対応できるイノベーションを生み出す企業への変貌は困難でしょう。

一つ個人的な経験なのですが、アジア某国で評価制度設計をしたときにその国ではジョブ・ディスクリプションを明確にする労働契約が主流でした。(その国ではと言うより、日本以外はほとんどそうだと思いますが)
当然こちらも現地スタッフの採用や評価制度はその国のスタンダードに合わせます。しかしながらその会社のサービスはエンドユーザーへのサービス提供であり、コンテンツ企画者やアプリ開発者、クラウド運用者などが一体とならならないと成功しないモデルでした。私は縦割りのジョブ・ディスクリプションを定義するだけでは「他部門の仕事は知らん、、、」となってしまうことを恐れました。そこで各メンバーの評価制度に70%は自グループの仕事、30%はクロスファンクション、他部門コーディネート、他部門が忙しい時にヘルプなどを評価軸にしました。ちゃんとクロスファンクションなどを実行すればその分は評価しました。
そうすると他部門との連携、意見調整、案出しなど非常に活性化しました。この時に分かったのは

「日本は阿吽の呼吸で助け合うけど、海外では自分の仕事しかしない、といったステレオタイプ」

のものの見方ではダメだなと。海外でも、「阿吽の呼吸」をきちんと言語化し、定義すればちゃんとやってくれるのです。日本の企業が今の「ザ・日本」、「ザ・昭和」の人事制度のままではグローバルレベルの競争、不確実な市場のサバイブ、イノベーションを起こし続ける企業体になることは困難だと思います。
私もキャリコンとして企業への制度設計には関わりたいと思っていますが、まず企業のパーパスをしっかり定義しそれを具現化するのに最適な人事制度の導入のお手伝いをしたいと考えています。その際にラディカルな究極のゴールを設定した上で、漸進的に今できることを考える経済学思考は武器になると考えています

ではでは



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