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脳内宇宙間浮遊

真夜中。皆が眠りについた町にある家の屋上で。
街頭のジリリという音だけが響く、静寂の中。首の皮が千切れるほどにうんと上を向いて、両の腕をめいっぱいに広げ、星空を眺める。
目を瞑ると、そこは宇宙である。

においはなく、無音が鼓膜を撫でる。それはまるで湖の深い底にいるようだった。

暗闇。私はただ、何を身にまとうこともなく、その中を脱力して、浮かんでいる。意図的に何かを描くわけでもない、無作為に散らばる白い点描。遥か遠くの恒星を周回する惑星の微かな影が、逆光の丸い黒としてこの目に映る。幾千もの恒星ごとに、それを感じて、思いを馳せる。

私は次に大きくなった。
先ほど観測していた惑星形の集まりが、ひとつの銀河として、これまた、砂粒のように散らばっている。白い渦、その中心の、超巨大黒点。

また他には、星雲さえ見える。
紫、碧、茶、様々な色のもやが、一瞬一瞬、形を留めることなく漂う。
その雲を眺めている時もまた、白い渦のひとつひとつが、光条による白い十字となって、奥にも、手前にも、四方八方から静かに観測される。

私はまた遥か遠い銀河系のなかで小さくなると、その中のひとつの星に降り立ち、生命を発見する。
人型ではない、体は蒼く光り、お尻に貝殻を乗せた、かたつむりのようなもの。あたりの木は緑に光り、海は黒い。その側の肌色の砂浜を、何を思うこともなく、ただ、這っている。
不思議と、興奮はなかった。ただ、その姿を見て、感動し、涙だけが出る。その時は、いや今も、その光景は言葉にはならない。

その砂浜で、私は1人木製のブランコに揺られていた。その時の私は、何も知らなかった。ただそこには宇宙のような何かがあり、宇宙も、先ほどの星々も、惑星系も、銀河系も、生命体も、ましてや自分までもが、物体そのものとしての輪郭を失い、ひとつに融け合っていた。

ずっとこのままいたい、過去も未来も隔てられぬはずのその空間でそう思ってしまった時、私は長い事、家の屋上でただ両腕を広げ、首を上に伸ばしたままである事に気がついた。

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