見出し画像

高齢者へのタンパク質摂取のすすめ(食事摂取基準2020から)

公衆衛生の知識を使って、健康的な社会を作りたい理学療法士のジローです。予防医療の中で、特に運動機能に関わる、サルコペニアやフレイルの予防に力を入れています。

先日、入院患者さん(80歳代、女性)から怖い話を聞きました。

その方は、ずっと悪かった腰の手術をして、入院してリハビリしているのですが、そろそろ退院というところで、退院準備のために別に住んでいる息子が家に行ってみたようです。

すると、痩せ細って、足が立たなくなった患者さんの夫が発見され、認知症の症状もみられたようで、すぐに受診になったようです。その患者さんの入院前までは、ごくごく普通であったようで、生活も自立していたため、まさか数ヶ月でここまで変わるとはと愕然とされていたようです。何か作って食べていると思っていたようですが、実際に80歳近くの男性は、調理もあまりできないでしょうし、買ってでもあまりしっかり食べず、このような状況になったようです。

高齢者は、タンパク質を摂取してもなかなか筋肉にならない事は、感覚的にはわかりますが、老年科学で有名な葛谷雅文先生は、これをタンパク質同化作用の低下として説明されています。

筋肉内にアミノ酸の同化を開始する閾値が存在して、高齢者ではこの閾値が上にシフトしているという考え方(anabolic threshold concept)を紹介しています。

同じ血中アミノ酸濃度でも、高齢者では赤線の同化閾値が上昇するため、筋肉タンパク質合成量が少ない


高齢者の同化抵抗性を払拭するには、この閾値を下げるか、この閾値を超えるだけの筋肉周囲のアミノ酸濃度を上げてやる必要がある



それでは、どの程度の量を摂取すれば良いのでしょうか。

2020年に改定された、日本人の食事摂取基準では、1日に必要なエネルギーの15%をタンパク質でとることが好ましいとされています。


活動量によっても、過不足の様相が変わってきます。肉体仕事の活動レベルⅢに相当する人は、機能維持のためにもっと多くのタンパク質摂取が必要です。

男性の65歳以上では、15から17歳の身体が大きくなるために必要なタンパク質量と同等の量が必要、
女性の65歳以上では、20歳代に必要なタンパク質量よりむしろ多いくらい必要とされています。年齢で、タンパク質の摂取量を下げないように注意が必要です。


若い時には、「これ以上食べるな」と言っても食べてしまうものですが、高齢になるとなかなか多く食べることもしんどいものです。

腎不全では、タンパク質の摂取制限があるなど、個別のケースがありますので、たくさん摂取して良いかは、主治医や管理栄養士さんに相談してみてください。

とはいえ、朝食:パン、昼食:そうめん、夕食:スーパーの惣菜をおかずに白米少々では、タンパク質不足になりかねませんので、工夫しながら量や質を確保していきましょう。

タンパク質は筋肉の大元です。サルコペニアやフレイルの予防のために、摂取量を見直してみるのはいかがでしょうか?


まとめ

高齢者の機能維持には、運動とともに十分なエネルギー摂取(その中でもタンパク質:全体のエネルギー量の15%以上)が必要。

高齢者では、タンパク質を摂取しても、同化抵抗性があるため、意識して多くのタンパク質を摂取する必要がある。

タンパク質の量だけでなく、質も注意することで、血中アミノ酸の濃度を確保できる可能性がある。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?