浜辺に打ち寄せられた真っ黒な夢の残骸
波の音で聞こえなくとも
中から禍々しい物語が放たれているに違いない
光が当たると
淡く白い仄かな反射が
貝殻のようにも見える時があるが
一欠片掬って手に取れば
すぐにそれが悪夢だったのだと分かる
これは最近流行り出した不思議な現象のお話
人々は
白と黒しか色のない夢を見るようになった
人によって視る夢は様々だが
どれも決まって悪夢なのだという
しかしこれは
ただの悪夢では終わらない
こうして人々が見た夢が
結晶となって具現化し
浜辺に打ち上げられているというのだ
夢を浜辺で見つけた者が言うには
初めて視たのにも関わらず
黒くて白くて
禍々しく毒々しい「それ」が
誰かが視た「夢」そのものなのだと
直感したのだそうだ
しかし
夢から醒めた後
知らぬ間に物語を見失ってしまうのと同様で
漂着した「夢」たちも
知らぬ間に無くなっているそうだ
浜辺で見つけたことすら
夢であったかのように
その「夢」は胸騒ぎのように
ザラザラとした不吉な感触がする
それに触れると
夢の物語が自分へ流れ込んでくる
くらりくらりと夢の波に襲われて──
目が醒めた後も
まだこの手に
夢が漂っているようだ
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