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【掌編】狸の夢

夏の雲は空を流れて何処へゆくのだろうか。

弥助は、墓地が見える丘で寝転がりながら煙草をくわえた。紫色の煙が空に向かって昇ってゆく。 
お盆だというのに、この墓地には人っ子一人いない。貧しい弥助は、お下がりを頂戴しにわざわざやって来たのだったが、あてが外れてがっかりしていた。

「一体どんなやつが眠ってるって言うんだ?」
弥助はふらふらと立ち上がって、お盆参りにも来て貰えない仏たちを興味本位で見てやろうと考えた。
当然の事ながら、縁もゆかりも無い人達の名前がずらずらと並んでいる。しかし、気になるのは命日だ。
『令和×年×月×日』
弥助は首を捻る。
「こりゃ、なんて読むんだ? 聞いたこともない元号だ」
誰も来ない墓地に、知らない元号……。弥助はだんだんと気味が悪くなってきた。彫り間違えかと思って順に墓を見て回ったが、令和の他にも『平成』やら『昭和』やら、聞いた事のない元号が並んでいる。
弥助はとうとう一際古い墓の前までやってきて、一体この墓にはなんと書かれているのだろうと覗き込んだ。 偶然なのか、一番左端に自分と同じ名前が刻まれていることに気がついた。
「命日は、大正十五年八月十五日……って、おいおい、今日じゃねえか、勘弁してくれ! なんの冗談だってんだ」
この不気味な予言めいた命日を見た弥助は真っ青になって、
「南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏……」
逃げ出したが、慌てすぎて大きな石につっかかり、山の斜面をごろごろと転げ落ちてしまった。

「うわーっ!」
自分の叫び声に弥助は目が覚めると、
「なんだ、夢か……」
思わず胸を撫で下ろした。
不思議なことに、弥助のそばには大福が三つ、落ちていた。

 夏の雲は何食わぬ様子で空を流れていったのだった。


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