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【S07:STORY】世界を創造するアーティスト・小鳥遊音

ピアノ弾き語りを中心に多彩な活動を行っているアーティスト・小鳥遊音(たかなし・おと)。路上ミュージシャンだった彼女は、19年春にPiano Barの店主を務め、1st singleを発売するなど活躍中だ。現在はアルバムの制作に勤しんでいる小鳥遊の軌跡とは。

『表現したいことを全て表現する方法』を探して

東伏見駅北口から徒歩0分。かえで通り沿いのビルの2階に、Piano Bar 休憩時間#(きゅうけいじかん・しゃーぷ)という店があった。

ホワイトウッドの扉を開けると、日常から隔絶された癒しの空間が広がる。壁一面に並べられた、こだわりの本や雑貨。ライトオークで統一されたインテリアのアクセントとなっているのが、駅前ロータリーを望む窓際に置かれたグランドピアノだ。黄昏時には美しい夕陽が射し込み、ピアノと店内を温かく照らし出す。

このpiano barの店主を務めていたのが、小鳥遊音だ。

アーティスト名の由来を聞くと「ぱっと文字を見たときに、『幸せ』や『楽しい』などのポジティブな気持ちが湧いてきたり、音色が聴こえてきそうな名前にしたかったんです」。そう語る小鳥遊の音楽歴は長い。

3歳のころ、ヤマハの教室でピアノを習い始めた。他にも吹奏楽部でサックスを吹いたり、ギター演奏に挑戦したり、様々な楽器に親しんできた。

歌を歌うようになったのは高校生のころ。ピアノ伴奏者として合唱部に参加していた小鳥遊は、同じ部活の友達とともに、文化祭でCHEMiSTRYをカバーした。その歌声を聴いた人々から『めちゃくちゃうまい』と褒められたことで自信を得た。

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キーボードを担ぎ、新百合ヶ丘や多摩センターなど、小田急線沿いの駅で路上ライブを始めた小鳥遊。だが、路上を中心に活動していた4~5年間は、思うようにいかないことの繰り返しだったという。「キーボードの音なんてたかが知れてるし、お巡りさんには止められるし」。

一方で、出逢いも多かった。ファンや応援者が続々と現れ、ライブをしていると100人ほどの人垣ができる日もあったという。

カホンとバイオリンとともにバンドを結成した時期もある。「楽しかったんですけど、決まった音色で世界を作り上げなきゃいけないっていうのが、どうにも性に合わなくて」と小鳥遊は振り返った。

自分の表現したいことを全て表現できるアーティストになりたいと思いながら、小鳥遊は試行錯誤の日々を過ごした。2016年には島村楽器主催のライブコンテストに出場。レターソングの作成依頼を引き受けるなど、活動の幅を広げた。

さらに16年7月、『飛んでイスタンブール』をヒット曲に持つ庄野真代氏が率いる『国境なき楽団』とともにモンゴルへ渡航。現地の子ども達へ楽器を届ける旅のなかで、人生観が変わるほどの刺激を受けた。

そして、新たな転機が19年春に訪れた。

もっと実験的に、様々な音を楽しんでいきたい

支援者の縁で『休憩時館#』の店主になることに決まり、東伏見へ引っ越した小鳥遊。「屋根のあるところで歌うのは夢でした。自分で、ピアノのある店が持ちたいなって。店主になれて嬉しかったですね」。同時に、『待つわ』で知られるあみんなどを育ててきた作曲家の野口義修(のぐち・よしのぶ)氏とタッグを組み、楽曲制作を開始した。

2人の出逢いは約2年前。小鳥遊がギターを習っていた人物を通じて知り合った。しかし、当時はともに音楽活動をするに至らなかった。「あのころの私はとてもプライドが高くて。人に作曲を習ったり、編曲されたりするのは、腹の立つことだったんです」と小鳥遊は振り返る。

生粋のアーティスト気質である彼女は、よくも悪くも自我が強い。だが2年間の活動で協調性が培われ、「ぜひ編曲してください、と言える心境になりました」。野口氏の拠点も東伏見にあったため、小鳥遊の転居と『休憩時館#』の開店に伴い、再び連絡をとるようになった。

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野口氏に小鳥遊の印象を聞くと、「会った瞬間に『ものすごい才能だ。ぜひご一緒したい』と感じましたね」。「職業柄、色んな人と関わってきましたが、彼女は一番と言いますか、過去に例のない才能です。神様にこの出逢いを感謝したいくらいです」と語ってくれた。

「彼女は、普通の人が喋るように音楽をやるんです。絶対音感と相対音感の両方が優れていて、感じ方がスペシャル。共感覚もあって、音を聞いて感じた色や香りを創作に取り入れているんですよ」。

小鳥遊には、現在流行している音楽はありきたりに聴こえるという。「みんな無難っていうか。『音楽』は、もっと実験的であっていいと思うんです。どこにも所属していない自分だからこそ、刺激のあるものを作りたい。自分の声や音でとことん遊びたい。世界を変える意気込みでやっています」。

野口氏も「小鳥遊さんのアーティスト性が世界に響けばいい」と、全力で支えている。

小学生から年配の方まで多くのファンが集った『休憩時館#』は、小鳥遊の体調など様々な事情があって閉店してしまった。しかし、その夢は終わったわけではない。

「自分の楽曲がヒットして『あの小鳥遊音が目の前で歌ってくれる。即興で演奏してくれる』って話題になるようなお店が持てたら幸せです。予約制で、いつも超満員で、みんながカジュアルに本物の音楽に触れられるお店にしたいですね」。

彼女の生み出す音楽と、それを楽しむことができる空間がどんな展開を見せていくのか、楽しみだ。

text:momiji

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