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【S01:MUSIC】2台のピアノとボーカルが紡ぐ、唯一無二のポップス/call....it sings

ボーカル&ピアノの森本千鶴と、ピアノのヤエオ雄太による男女二人組ポップスユニット、call....it sings(コール・イット・シングス)。彼らの特徴的な演奏形態と、キャッチーで親しみやすい『さくらら』をはじめとする楽曲群が生まれた背景に迫る。

「どんなユニット?」を説明しやすいように

call....it singsのライブへ行くと、決まって見られる光景がある。ステージに並んだ2台のピアノ。一方に、どっしりと腰を据えるヤエオ。反対側には、路上ライブを行うピアノ弾き語りアーティストのような佇まいの森本がいる。

「私たちは『ふたつのピアノで歌を奏でる』というキャッチフレーズで活動しています。どんな風に演奏しているのか、『さくらら』という曲で説明しますね」。

言うなり、森本が高音域の和音を刻む。ころころした音色が弾んでいく。「これが私の担当パートです。ヤエオは、よりメロディアスな部分を担当しています」。すかさずヤエオがピアノを奏でる。ほんの一節を聴いただけで、旋律の美しさと、彼の優れたピアノ演奏技巧が伝わってくる。

そして森本は歌いだす。「ふたつのピアノの音に、私の歌が乗ると、こうなります」。分解して説明されたからこそ分かる音の厚みが、call....it singsの完成度の高さを実感させる。

二人がこの演奏形態を確立させたのは、2015年頃だという。東京のライブシーンに進出していく中で、いかに独自性を打ち出すかを考えた。「ツインギターのユニットは多いが、ピアノは少ない」。見た目のインパクトはもちろん、興味を持ってくれたお客さんが、友人に「ピアノ2台のユニットがいたよ」と説明しやすいと思ったのだ。

試行錯誤を重ね、切磋琢磨した日々

とはいえ「完全に自分のものにするには、2年くらいかかりました」と森本は遠い目をする。そもそも、長年インストゥルメンタルを中心に手掛けてきたヤエオの作る曲は、ポップ・ミュージックという表現の枠に収まらないものが多かった。

ワンフレーズが長すぎて歌詞のつけ方に迷ったり、息継ぎを入れる箇所が少なくて歌いづらかったりしたという。「歌唱とピアノの両立も大変。だけど私にも意地があるので、ヤエオの音楽に負けてたまるか!という気持ちで臨んでました」。

「俺は「ホールライブでどんな企画がしたい?」と聞かれたら、「ピアノを10台並べて合奏したい」と答える人間ですよ」と、悪びれないヤエオ。

ピアノ2台のアンサンブルにいかにメロディを乗せるかは全て彼の頭の中にある。「森本は感情で歌を作る人。だから俺は多様な曲を作って、彼女が気に入ったものを選んでもらうようにしてます。意地の張り合いですよ」。

ユニット活動初期の曲、たとえば『oneDay』を聴くと、個々の技量を競い合う様子が手に取るようにわかる。しかし最新アルバム収録曲『走れ泣き虫』などは、違う印象を受けた。森本の詞も歌も、ヤエオの曲も演奏も、いい意味で棘が取れているのだ。ユニットとして円熟の域に達したのだろう。

二人が思い描く「5年後の自分」とは

家族愛の強い森本には夢があるという。「私自身はもちろん、私のやっている音楽、ヤエオの存在も含めて、まるっと好きになってくれる人に出会いたい。結婚して子どもを持った時、自分がどんな歌を歌えるのか楽しみ。ずっとcall....it singsを続けていたいです」。

ヤエオは、自身の音楽活動を「螺旋階段を上っている途中」と喩える。

「年齢を重ねるたびに『本物』を確かめてきた。20代の頃に仕上げられなかった曲を30代で完成させたように、40代もそうでありたい。同じところを回っているように見えても、前より高いところにいる。そういう風に生きていきたい」。

5年後、10年後まで追いかけたいアーティスト達である。

text by Momiji | illustration by Kei | casting by Smitch

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