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【S08:STORY】シンセサイザーロックユニット・ELECTOILE

vo.新井一徳(あらい・ただのり)とkey.菊地祐介(きくち・ゆうすけ)によるユニット・ELECTOILE(エレクトワール)。クールなサウンドとパフォーマンスはもちろん、親しみやすい人柄が魅力的なふたりの物語に迫った。

キックン☆イックンの結成

新井一徳(あらい・ただのり)は、歌うことが好きな子どもだった。

月に1枚、新しいCDを買ってもらうことが楽しみで、収録されている楽曲の歌詞はもちろん、曲順まで全て覚えてしまうほど聞きこんだ。さらにお風呂場で歌ったり、ラムネのボトルを加工して作ったマイクを手に歌ったりしていたという。

『歌手になりたい』という思いはあったが、理想と現実の狭間で挫折を繰り返した。自分の歌を録音し、その下手さに落ち込んで、カラオケへ行くことすらやめてしまった時期がある。ギターやピアノも練習してみたが、熱中できなかった。

本格的な音楽活動はしないまま大学を卒業。都内の歯科医院へ勤務していると、縁あって雑誌やテレビへ出演するようになった。しばらくして、とある番組での共演者から「ライブを観に行かない?」と誘われる。

シンガーソングライターかつシンセサイザー奏者の菊地祐介(きくち・ゆうすけ)のライブだった。

「彼のステージが、もう、めっちゃカッコよくて。『この人と一緒に音楽をやりたい』と強く思いました」と、新井は当時を振り返る。

一方の菊地は、T.M.Revolutionに強く影響を受けた少年だった。

「西川貴教さんのようなボーカリストになりたかったんですが、親に『歌手になりたい』と言うのは恥ずかしくて。でも不思議なことに、『作曲家になりたい』と言うのは恥ずかしくなかったんですよ」。

ボーカルやギターに興味を持ちつつも、中学校に置いてあったDTM機器と出逢い、その面白さに心を奪われた。サブカルチャー好きな性格も相まって、パソコンそのものにものめりこんでいったという。

「音楽活動するにあたって、『自分で作曲をするのは当然』という意識が身に着いたのはよかったですね」。

引きこもりがちな青春時代を過ごした菊地は、芸能界などの華やかな世界に憧れた。「なんとか自分をそこまで引き上げたい」という執念で、自らの技術を磨いていった。

05年、初代仮面ライダーである藤岡弘氏の殺陣テーマソング制作にて、作・編曲家デビュー。アイドルやスポーツ選手へ楽曲提供を行ったり、キーボードで他のミュージシャンのサポート演奏をしたり、活躍の場を広げていく。

ソロのシンガーソングライターやタレントとしての活動にも注力していた2015年ごろ、ライブの終演後に話しかけてきたのが新井だった。

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当時、菊地には「一緒にユニットを組まないか」という誘いが多く寄せられていた。そのなかで新井とユニットを組み、今日まで続いている理由は「彼の謙虚さ、人柄の素晴らしさが一番ですね」と語る。

年齢が近く、音楽の趣味も似通っており、話が合ったふたり。さらに新井のステージングのカッコよさに、「クールな僕たちの音楽を表現するには、相性ばっちりだと思いました」。こうして菊地と新井は、16年から『キックン☆イックン』として活動するようになった。

ELECTOILEの夢見る場所

オリジナル楽曲を制作し、ライブ出演を重ねていったふたりだが、あるとき「音楽性とユニット名が噛みあっていない」という指摘を受ける。

菊地が奏でるシンセサイザーの音色と新井の歌声の美しさ、ふたりのパフォーマンスのカッコよさと、お笑い芸人のようなユニット名が不釣り合いだというのだ。ユニット名だけでなく、MCでのトークに対しても「演奏とのギャップが激しい」と賛否両論が寄せられた。

「元々、僕は三枚目キャラなんですよ」と言う菊地。「お笑い芸人の方々が出るイベントの司会を担当することもあるし、すぐふざけちゃうんです」。

新井いわく、菊地はどんなときも『楽しさ』を最優先しているのだという。「何事も、まずは自分が楽しんで、お客さんにも楽しんでもらえるようにしているんですよ」。

楽曲のイメージに合わせ、まったく喋らないMCも試したが、上手くいかなかった。「スカしてずっと歌っていることに耐えられなくて」と新井は笑う。「今は自然体でやってます」。

しかし、ユニット名については再考。フランス語で『電子音』を意味する『electron(エレクトロン)』と、キャンバスを意味する『toile(トワール)』を組み合わせ、『ELECTOILE(エレクトワール)』という言葉を生み出した。

「僕が一目惚れした、キックンのシンセサイザーの演奏とパフォーマンス。そこに僕が混ざって、いろんな絵を描けたらいいな」と、新井はユニット名に込めた思いを語る。菊地も「幾つか候補を挙げましたが、すぐに『これがいいね』と意見が一致しました」。

こうして18年1月に正式結成されたELECTOILEは、月1回程度のペースでライブを続けてきた。現在は、音源制作のために少し頻度を落としている。「YouTubeで色んな楽曲を聴いてもらいつつ、グッズとしてCDも欲しいなって。物販に並んでいたら楽しいし」。

新井は歯科医師、菊地は音楽講師など多くの顔を持ち、互いに多忙を極めるが、効率よく連絡をとることで継続的な活動を可能にしている。「普段はLINEなどでデータのやり取りをして、『会う意味がある時だけ会おう』というスタンスですね」。

これからはTwitterなどのSNSをより活用し、楽曲はもちろん、ふたりのストーリーを楽しめるようなコンテンツを展開する予定だ。「主催ライブもやってみたいです」と、新井は目を輝かせる。

菊地に将来の夢を聞くと、「まずは新宿BLAZEで演奏したい。それからZeppへの出演が定番になって、武道館、東京ドームと目指していけたらいいですね」。高い目標を設定しつつ、一歩一歩階段を上って行きたいと言う。

翻って、新井は「僕はキックンに比べて音楽にかけてきた時間が少ないので、足をひっぱらないようにと頑張っています。『イックンと組んでよかったな』と思ってもらいたいです」。

老若男女問わず、90年代の音楽が好きな人々を中心にファンを集めているELECTOILE。「幅広いエンタメを作っていきたい」と語る彼らの今後に期待したい。

text:Momiji

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