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別れて3日目の記録

サーティワンのよくばりフェスに乗じてアイスをやけ食いしようと出かけたら、帰宅ラッシュの混雑に巻き込まれてすでに閉店間際。
店舗にはさらにモバイルオーダーのみの表示。

思い立って来たものだから、当然予約なんてしていない。
通常どおりの注文なら買えそうだったけれど、やけ食いするためだけに来たので、今日は諦めることにした。

とぼとぼと帰ろうとしたけれど、足が勝手に通り道のCDショップに吸い寄せられる。
大好きなaikoの棚、平井堅の棚、好きなバンドたちのイニシャルを探しているうちに、隅にある半額コーナーに行き着いた。
この店に来るのも久しぶりだったので、代わり映えがないか端から端までじっくり眺めてみた。

その中にまだ持っていなかったaikoのアルバム(しかも初回限定盤!)を見つけて、わ、と思わず小さな声が出た。
周りを見回すけれど、誰にも聞かれていないみたい。
オマケのブルーレイには、泣きたいくらい好きな歌が入っているライブ映像。
すぐに手に取って、レジに向かった。

次は本屋に入った。
今はせつない恋の物語が読みたい気分だ。
ゆっくりと文庫本のコーナーを眺めて、一冊の本を手に取った。
ぺらりとめくる。止まらない。
しばらく離れられなかった。

はっとすると、10分近くその場に拘束されていた。
これはもう手元に置いて、ゆっくりと全部読んでしまいたい。
裏面を見て860円(税込)の文字に少し驚く。
高いな、たしかにそれなりの分厚さはあるけれど。

その本も買った。
最近は書籍も値上がりしているらしい。
カバーをかけますか?と聞かれ、お願いしますと答えた。
新品の本に掛かる軽い紙の手触りが、私はすごく好きだったことを思い出した。
小説を読むのもずいぶん久しぶりな気がする。
帰って大事に読もう。

恋をしていると。
好きな人のことを考えていると。

私はどうも、自分の趣味への関心が薄らいでしまうようだ。
彼と付き合っている間、映画やカラオケにはしょっちゅう行っていたけれど、私にはそれ以外にももっとたくさん好きなこと、やりたいことがあったのだ。

スイーツを食べに行くことも(今回は未遂だったけれど)、CDを探すことも、読書も、好きなことに久しぶりに触れて、今日という日で、元の私を少しだけ取り戻せた気がする。


彼と出会う以前の私。
どうやって過ごしていたんだっけ。
まだ、まだ完璧には戻れないな。

車に戻りすぐにCDを開封して、ディスクを入れた。
私は、買ったCDを初めて流すときは、最初から終わりまで必ず歌詞カードを見ながら聴くようにしている。
その時間が好きなのだ。

またねって言って別れたから
なんか続きがまたありそうで
明日目が覚めたらって思っちゃうの

冷凍便/aiko

あの人の顔を見たのは、夏祭りに行ったあと私の家まで送ってくれて、車のドアを閉めた時が最後だった。
今日はありがとうね、じゃあね、と開いた窓越しに手を振りあった。お互いにいつもの別れ際の笑顔だった。

走り出す車を少しだけ見送って背を向けた。
また明日会えると思っていたの。
それで本当に最後とは思わなかった。

愛なんて知らない 君の本当もわからない

あたしといつもの道の角を曲がって
二つ目の赤で手を繋いで

信号/aiko

あなたが本当はどう思っていたのかも、今は尋ねることさえできない。
あの道をあなたとまた手を繋いで歩くことも叶わない。

全部、終わったんだ。
もう二度とあの日々は戻らない。

これが最後かもしれないと
あなたにあたしはキスをする
もう逢えないかもしれないと
あなたをあたしは抱きしめる

夢見る隙間/aiko

もう逢えないのなら、これで最後だと知っていれば。もっと大切にあなたと言葉を交わして、もっとあなたを目に焼き付けて、もっとありがとうの気持ちをこめて、あなたに手を振ればよかったな。

考えていたらぽたぽたと想いが溢れた。
これはもう、今の私に刺さりすぎる。
ごめん、正直まだ辛いよ。

いつか必ずあなたと別れなければならない日が来ることはわかっていた。
ただもう少し先だといいなと思っていた。

私は、あなたを許せなかった。
あなたも、私を許せなかった。
どうしようもなく私たちは、こうなる運命だったんだなぁ。

音楽は半分欠けた私の心の深いところにそっと染みて、帰り道、通り過ぎていく夜の風景が、また心を揺らした。

家に着いて、サーティーワンのよくばりフェス(7個入り)をさっそく予約しておいた。
土曜日の3時に取りに行く、ささやかな幸せ。

少しずつ、私は忘れていた私を取り戻す。
彼といた事で離れていた、手放していたものたちを。
きっとこれから、そんな旅が始まるんだ。

あなたのその目の輝きも あたしの夢も
それぞれある 道のりも
遠回り つきあたり 迷い
下を向き涙こぼれても

必ずいつかまた逢える 必ずいつか重なる
少し離れるね 元気でいようね
抱きしめてくれた熱い首に流れる優しいしるし

本当の言葉を 2人だけの秘密を 楽しい時を
いつかあたしも あなたに話すね
あの日何を 言いたかったか

蒼い日/aiko

私とあの人の蒼い日は、少しずつ遠ざかっていく。
今日の、エンディング。

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