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King Gnu Asia Tour『THE GREATEST UNKNOWN』 シンガポール公演

King Gnu Asia Tour『THE GREATEST UNKNOWN』in Singapore
Date: Wednesday, 10 April 2024
Time: 7:00 pm
Venue: The Star Theatre

シンガポールのBuona Vistaブオナビスタ)MRT駅から徒歩すぐにあるThe Star Theatreは、馬蹄型で天井が高いクラシカルなホールだ。
この日はあいにくの雨だったが、駅から屋根付きのルートがあるので濡れることなく会場に到着した。

The Star Theatre


私の席は1階舞台下手側、ギター・ボーカルの常田大輝氏のマイクスタンドの直線部分だった。開演前は常田氏の座るであろう白い椅子やマイクスタンドをスマホで撮りに人がひっきりなしに訪れていた。


左隣に1人で来た様子の20代前半の女性が座っていた。服装や持ち物から日本人かと思い「Are you Japanese?」と聞くと「No.Thailand」と返ってきた。
日本語はスコシハナセルと、はにかむ顔がキュートだった。
日本ではこんなに近くで見ることはできないからラッキーだ、と言うので、日本でも観たことがあるのか聞くとNo。今回が初めてだという。
おそらく彼女はネット上のKing Gnuの様々な映像を未漁ってきた猛者だろう。
アジアツアーの開催を知り狂喜乱舞し、何かの拍子にメンバーと会えたときのため日本語も勉強しタイ発シンガポール行き約2時間の空路を経てこの場所にいる、のかもしれない。
彼女の今までと、このすぐ先の未来で夢が叶う奇跡に居合わせたことに、小さく感動した。

前の席には若い男女ふたり組がいた。
男性のファッションを見てすぐに、彼が常田氏をリスペクトしていることが推察された(主に髪型)。
King Gnuのライブ会場には常田コスの民が多数いるとは聞いていたが海も国境も超えた東南アジアのBOYをも虜にしているなんて、大いなる常田大輝。
しかし前席の彼、ヘアーは常田であるもののNO髭に純朴そうな顔立ち・ワクワクを隠しきれずにはしゃぐ姿にはまだ10代のような幼さがあった。
きっとまだ生まれたて。 温室の、常田。
ネットサーフしてKing Gnuに出会い常田氏に惚れて美容室に行き「この髪型にしてください」って美容師さんに常田大輝画像を見せる彼の今日までのロード・オブ・ザ・ツネタを妄想するとなんていうかこう、お母さん魂が揺さぶられる。
あんだ今から憧れのひとに会えるよ…えがったねぇ…

後ろからはキャッキャと二人組のギャルがはしゃいでいる。
ベトナムから来たような雰囲気(予想です)。
きっと彼女たちはこの先もズッ友で、ウン十年経ちおばあちゃんになったときも、この日を思い出すその瞬間だけはいつでもヤングなバンギャに戻るのだ。

会場からは日本語もたくさん聞こえてきた。
シンガポール在住ではなく日本から駆けつけたファンも一定数いる様子だった。
初のアジアツアーを目撃したい者、壇上の彼らを応援したい者。
今日のために海外サイトでのチケットの取り方を研究し、チケット購入に命揺らし歓喜し、航空券をとりホテルを手配し、円安にびびり仕事や家庭や勉強をやりくりし、来たのだ。
天を仰いだとき地を睨みつけたときもこの日を糧に生きて、きたのだ。
そして日本列島にも想いよ届け届けとこの場所に一途に思いを寄せているひとが数多いるのだろう。

会場前。スクリーンにMVが映し出されていた。

ライブ開始まであと数分となった。
うしろを振り返り見上げると3階席まで人がいた。
会場の収容人数は5000人、日本人アーティストでこの会場をSOLDOUTにしたのは今回の公演が初めてだという。
とはいえ、厳密にはいくつか空席があったと思う。
どの公演に対しても言えることだが、本人や家族の事情、それぞれの致し方ない事情により来れなかった人もいるのだろう。
けれども、そのひとたちも含めてこの座席の数だけ人生があり、それぞれその道のりのどこかでKing Gnuの曲と出会い心惹かれてこの場所にくることを選んだ。
ヒシャブをつけた女性、中華系のファミリー、いつもとは違う場所に来れてはしゃいだ様子の子供も。
約5000のジャンルの違うストーリーが、決して重なりあうはずのなかった点たちが、同じ空間で繋がりひとつの画となっていた。

音楽は、すごいな。
そんなことを考える。


パッと会場の照明が消えて暗転。
わたしたちはその時を迎える。
同時に背後からものすごい力で背中を押されるような(実際にはそんなことないのだけど)大きな歓声が沸き起こる。うしろのギャルはキャーというよりギャー。悲鳴に近い声をあげた。
1曲目は「SPECIALZ」
激しい閃光がステージを会場を照らす。気がつくと目の前に常田氏がいた。
そのとき自分が何を思ったかは、今でも覚えてる。

「...人間?」

常田大輝はかっこいい、ということは地球は丸くてカレーは2日目がおいしいのと等しく常識。私だって承知していた。
しかし実物は、発光してるんか?ってくらいの輝きとオーラを纏っていた。
それはもう、今世では消滅したはずの私の乙女心も地底から「…死んでる場合じゃないし!」(ボゴッ)と息を吹き返すほどに、かっ   

こよかった。

そしてギター。
DJのスクラッチ音(キュキュキュキュって音)のような音をギターから出してるところを目撃したときは驚いた。機械ではなくギターでこの音を出していたのかと。
その他にも常田氏の演奏からは終始、ギターとはこういう楽器だったのか、とギターの神秘を見たようなそんな気持ちにさせられる場面が多かった。それは純粋な音の響きだけでなく演奏者自身のカリスマ性も相まって生まれた〝印象〟なのかもしれないけれど、私にはそう感じられた。
荒ぶっていても、いつもどこか神聖だった。

以前何かのインスタライブで、制作の時間が増えたのでプレイヤーとしての腕は落ちてるというようなことを常田氏自身が語っていた記憶がある。
自身や演奏のプロに言わせるとそういう側面も、ひょっとするとあるのかもしれない。
けれどわたしには目にうつる全て耳を駆け抜けていく音のすべて、すべてが素晴らしかった。
彼のギターソロが始まると何千といる観客の焦点が彼一点に集中する感覚があった。彼と彼の奏でる旋律はまるで予測不能で軌道の読めない新種の惑星で、観客はそのまばゆさ変幻自在さに憧れてまばたきも忘れ必死で追いかける小さな星のようだった。

余談ではあるが,エフェクターをふんでいる足元やピアノ演奏の際に音量など細かな調節をしている手元を見ることができたのも、個人的には萌えた。
以前、Netflixのドキュメンタリーで見た楽曲制作風景やテレビ番組でSPECIALZのイントロ部分に100近い音を使っていると語っていたのを思い出す。
テレビやMVに映る鮮やかなシーンだけでない地道な作業、丁寧さ、考察、工夫や苦労の積み重ねの上にわたしたちを熱狂させる音楽があるのだと思った。
なのでそういう…小さな、作業の、片鱗?を見れたことは少しだけその生々しさに触れた気がして、グッときた。


なお、シンガポール公演は当日のアナウンスで急遽ライブ中の撮影がOKになることが告げられた。
私も眼前の奇跡を永久保存しようとしたが前席の温室常田くんが想定外に背が高く、しかも彼、常田氏を終始スマホ&コンデジの2台体制で撮影していたので(データ欲しい)私の撮影画面にはどうしても彼の後頭部や液晶画面が映ってしまう事態となった。のでほぼ肉眼で見届けることに決めた。
途中、カメラマンさんが私の横で撮影をしていたので液晶画面をチラリとのぞいたらどの写真も最高だった。ありゃボツ写真選ぶほうが難しいべさ…(SDカード欲しい)
また、曲に合わせて変わるギターを見るのも一興。なかでも白いギターが神々しく美しく見えた。(ほしい)(もうなんでも欲しい)


オープニングのSPECIALSから一途千両役者などアップテンポな曲が続き、何曲目かで聴き慣れた歌詞が耳に飛び込んできた。

♪時には誰かを
知らず知らずのうちに
傷つけてしまったり
失ったりして初めて
犯した罪を知る♪

白日」だ。
この曲を聴くと私の脳裏にはある映像が浮かぶ。

薄暗い部屋、
カーテンの隙間からは街の光が漏れている。
時計は深夜2時。
傍には生後間もない赤子。
地球人なりたての生命体が数時間毎に起き泣くたび抱き上げてあやしては、耳にエアポッズを差し込み精神は音楽の世界へトリップさせていた、あの頃。
目はこどもから離さない。手も離せない。眠いけれど眠ることは叶わない。
両の耳だけが自由だった、あの夜。
私はわたしを癒すために、音楽を聴いた。
次の曲が流れる前に繰り返しをタップして何度も何度もこの曲を聴いた。

2019年に配信リリースされた「白日」はKing Gnuが広く知られるきっかけとなった曲で、例に漏れずわたしとKing Gnuとの出会いもこの曲だった。
初めて聴いた時は声の持ち主の性別すらわからなかった。ただ、この曲はこの声なくしては完成しない曲であることは分かった。
当時の私は、誰かに白日を説明するときにこの声を「楽器のような歌声」と形容していた記憶がある。
ベートーヴェンのエリーゼのためにがピアノなくして成り立たないように、情熱大陸のテーマソングにヴァイオリンが必要なように、白日という曲は井口氏の歌声があってこそ「白日」たらしめるのだ。
ここではないどこかに自分を連れていってくれそうな広がりのあるメロディ、けれども歌詞ではもがきながらも地に足をつけて前に進んでいくことを歌っている。
そこに儚げで美しい歌声と力強い歌声が混じり合う。

あの夜から今日までを思い出しながらわたしはこの日の白日を聴いた。
この曲に何かしらのストーリーがある人は私以外にもたくさんいるのだろう。
井口氏が白日のイントロを歌い始めた時、ひときわ大きな歓声が鳴り響いたのだから。


私の記憶が定かであれば白日のあとにMCが入った。(と思う)
MCで常田氏が英語で話し始めると会場はかなり盛り上がった。
第一声では、楽しんでる?俺らも超エキサイティングしているよ、という主旨のことを話したと記憶。その後、
(常田氏:以下、常)「Singapore・・・シンがポー・・・」
しばし言葉を探したのちこう言い放つ。
(常)「Singapore has become my favorite city 」(ドヤっ)
ワー!と、巻き起こる歓声。
メンバーのほうを向いて両手でヨッシャ!みたいなポーズをとる常田氏。
井口氏から「よーし、やったぞ。言ってやったぞこいつわ…!」と褒めてもらう。優しい世界。
そして
(常)「また来ます、シンガポール。」
(井)「じゃあこのあとも楽しんで、よろしくー」
と日本語でMCしたあと、開演前にみんながこぞって撮影していたあの白い椅子に常田氏は着席した。
まだ浮き足立っていた会場がピアノの音が鳴った2秒後には、シンと静まり返った。
気がつくと壮大な旋律が奏でられていた。
ほんの数十秒だったが、私には愛とか欲とか混ざりあった重めの人生映画をイメージさせるメロディだった。
そしてその旋律は一呼吸置いたのち、「硝子窓」のイントロへと繋がる。硝子窓の世界観がまたドラマティックに深まっていた。
中2のとき、合唱コンクールで身体ガッチガチマッスル野球部坊主の男子がピアノ伴奏をしたのを見て人生初ギャップ萌え!体験して以来、ピアノを弾く男性には問答無用で惚れる病に侵された私。
もう、素敵すぎて持病の発作が起きそうだった。
ああいうのは、即興かしら、準備されたものなのかしら…突き止めたいけど叶わないミステリー…


続いて「泡」
私はこの曲が大好きなので、心して聴いた。
この日の泡はメロウなテンポと歌声でまるで水中にいるようだった。(青・エメラルドグリーンの縦に伸びる照明も美しくこの日一番心に残る光だった)
そしてなんといっても勢喜遊氏のドラムが超かっこよかった!ドラムが曲のドラマティックさをさらに引き立てていたと思う。
この曲はCDだと歌声や舌を鳴らす音(と思っている)などで静かに終わってゆくはず。しかしライブでは歌パートが終わるとドラムソロになり、
タンッタッタタッタッタタンタンタタンタタッタッタ(中略)ダンダダッダダダダダタタ タンッ 
→暗転。
で終了。
かっ こよすぎ…る…
ドラムってほんと、キングオブライブな気がする。
奏でるドラムも、勢喜遊氏のピンクパンサー色のツインテールもいかしてた(4人が並んだとき差し色になってて本当によかったと思う)
横で新井氏がドラムの音にあわせて首をブンブンやってノッている姿もさらによきだった。


何曲かののち、「Vinyl」。
この曲になると井口氏を見たくなってしまうので少しだけつま先だちをさせていただく(井口氏が死角の席だった)。
井口氏といえばどの曲かは忘れてしまったけれど(おそらく「sorrow」)、歌いながら歩く途中でマイクのコードを機材に引っかけてしまい(ご本人も気が付かず歩き続けようとしていた)あわやという場面でスタッフさんが横からシュッと現れてコードを直すシーンがあった。プロフェッショナルを垣間見た瞬間だった。
それからふと、ステージ横に待機するスタッフさんたちに目がゆくようになり、彼らが音楽にあわせて ッウイッウイってヘドバンしたり体を揺らしているのに気がついた。
胸が、熱くなった。

今回のツアータイトル「GERATEST UNKNOWN(偉大なる無名)」に常田氏は、

「時代を動かしているのは名もなき人達」
「有名無名は関係ない。(中略)ただただ、おんがく、さいこー」

という言葉を寄せている。
まさにそれだ、と思った。
壇上には名の知れたスターが4人いる。でも名前はわからないけれどあのコードを元に戻したスタッフさんがいなければ歌が途中で止まっていたかも知れないし、開演前の楽器の音をチェックしていたスタッフさんやステージを照らしている照明さんもなくてはならない存在だ。
そして私だって、無名のおばさんだが普段はそれなりに自分の持ち場で頑張っている。
あのひとも、そっちのひとも。皆別々の場所で踏ん張って、それぞれが社会の構成要素となって歯がゆい思いをしたりなんだりしながら、生きている。
けれど今この瞬間は、この空間でだけは
名を知られぬ者も、名の知れたスターも、「おんがく、さいこー」のもと、ひとつになっていた。

おんがく、さいこー

「):阿修羅:(」
ライブの聴き方は人それぞれと思っているので、みんなと一緒に手を上下にブンブンやるやつも自分がじっくり聞きたいときにはせずにジッと聴き入るタイプのわたし。けれどこの曲は自然と体が動いた。まわりとあわせなきゃとかも考えず、自由に。
斜め後ろの女性が序盤から腕組みをしてジッと動かないタイプだった(なんで注目してるねんって話なんだけど)が、おそらく彼女もこのときばかりは音楽に身を委ねて身体を揺らしていたはずだ(見届けてはない)。

「逆夢」
好きな曲なので記録したい…!と思って撮影した記憶があったのでスマホを見たら録画時間20秒だった。早々に諦めたらしい。
それもそのはず、画面の半分にはルンルン揺れながらスマホ撮影する温室常田くんが写っている。手元のスマホもしっかり上下運動してるから、家に帰ってから彼がびっくりしてないかちょっとだけ心配。

私は、King Gnuの逆夢を聴いてから歌詞を深く味わうために呪術廻戦をseason1から見始めたクチだ。
「劇場版呪術廻戦0」視聴後に歌詞を読んだら「っ常田氏〜〜〜!」となってこの曲がさらに好きになったのでほんとうに観てよかった。逆夢のときも会場から大きな歓声があがった気がする。
音楽とアニメは、世界と日本を繋いでくれている。

「Slumberland」
といえばメガホン常田氏の曲というイメージがあったけど、新井氏のかっこよさを堪能する曲でもあるのですね。
繰り返しになるが、私の席は下手側、King Gnuのみなさん基本的にフォーメーションを変えないので上手側の井口氏、新井氏が死角で終始見えなかった。
のだがこの曲の時は新井氏がずいずずいとフロントに来てくれた。
うおーかっこよい〜!ベースってこんなかっこいいんか〜!と惚れ惚れしているなか、わたしは見た。
新井氏が一番前に座っている小さい女の子に?別の人にかもしれないけれど、とりあえず前方の観客席にファンサ(自分の両目にピースをあててそれを観客席に戻すアクション。つまり、ちゃんと見てるよ!のジェスチャーと理解)しているのを。
これ目撃者全員「好き…!」てなったはずです男性も含めて。や、やさしい…かっこよくて、優しい…
もしファンサを貰っていたのがあの少女だとしたら彼女、10年くらい同級生には恋できないな。

「BOY」「雨燦々」
雨燦々のときに、常田氏が左手を挙げて手を左右にふるポーズをする。会場もそれと同じ動きをする。わたしもやる。一体感。楽しいな。

続いてピアノ演奏とともに「三文小説」

♪あゝ
僕のくだらない
表情や言葉一つで
微笑んだ君がいるから♪

響き渡る井口氏の歌声がひときわ美しいと感じた。
三文小説は、「ピアノって、ほんとうに素晴らしいですね」と言いたくなる逸品。
上の歌詞のときに常田氏がピアノの鍵盤の高音と中間の音を交互に力強く叩くように弾く(伝われ)シーンを肉眼に焼き付けたことは冥土の土産。

そしてこのあたりでたしか最後となり(記憶が…)、ひとりまたひとりスンっ…とステージからはけてゆくKing Gnuの面々。すぐさま沸き起こるアンコール。

アンコールが鳴り響く会場


迎えたアンコール。登場したメンバー定位置へ。
ここでなぜか常田氏が真顔で口をつぐんで「・・・」と押し黙っていたので井口氏が「お、怒ってる?」と聞く。
わたしも同じこと思ってました井口氏。
うちら観客のココロネ足りなかったかなごめんなさ...

(常)「How are you feeling?」

キャーーーーー
英語ーーーーー
Englishで何を言うかうーーんって考えてたから深刻な顔をしていたの?だとしたらいとしすぎませんか…

(常)「Thank you for your love,Everyone.
Now we are standing here because of your support.Thank you so much(※歓声が大きくて聞き取れかったがおそらくこういう主旨の発言)」

キャーーーーーーーー(歓声)
隣の隣の席にいた女性(香港から来たらしい)が、ちょっともういろいろと堪えきれなくなり
IKEME----------N!」
と絶叫してしまう。
(常)「...え?」(ちょっと照)
キャーーーーーーーーー(歓声)
お返事きたーーーーーー
もう今夜興奮して寝れないぜ彼女。
(常)「Can We do a few more song?」
キャーーーーーーーーー(歓声)

(常)「Thanks. This song is called
Prayer X”.」

ウッギャーーーーーーーーーーーーー!!!!!


歓声、というより叫びだった。
この日1番大きな声が会場に響き渡った瞬間だった気がする。
うしろのベトナムギャルも
「ギャーー!!!ギャーッ!!ギャ!!gyッ…」
と、過呼吸寸前だった。
そんな客席の反応に常田氏も一瞬「おっつ」って顔をして驚いていた気がする。
日本のアニメ、さらにいうと「BANANA FISH」という作品がいかに世界中で愛されファンが多いのかも目の当たりにした瞬間だった。
Prayer X」は2017年に放送開始した「BANANA FISH」というアニメのエンディングテーマだった曲だ。原作は吉田秋生先生の名作of名作の伝説的少女漫画でこの漫画を読みし者は皆主人公アッシュに恋をしてしまう副作用があり例にもれず私もアッシュに惚れてグッズとか買っちゃったりしちゃったのだがこれ以上「BANANA FISH」にまで言及するとあと1万字要してしまうので割愛。

(常)「Sing with Us」
そして合唱へ。

♪ 溢れ出した涙のように
一時の煌めく命ならば
出会いと別れを
繰り返す日々の中で
一体全体何を信じればいい♪

会場に響き渡る、とまではいえないが客席からは、
ちゃんと歌声が聞こえてきた。
シンガポールは多民族国家。英語は共通語だけれど人種によってそれぞれの母国語があり中国語・マレー語・タミール語など様々だ。そうした様々なバックグラウンドを持つ人々が、言語の違う者同士が、同じ言葉を、それも日本語で歌っている。
不思議で感動的なひとときだった。
そしてイントロの合唱パートが終わると、照明がステージを黄色に染めた。
黄色=BANANA FISHの色だ(コミックの装丁が黄色カバー、アニメも同様にタイトルバックは黄色)。
説明不要で伝わる光のメッセージ。
海外のBANANAFISHファンもこの演出に高揚したに違いない。おたくが言うんだから、間違いないよ(公式ファンブックも持ってっから)

アンコール2曲目、「Teenager forever
この曲も新井氏が前に出てきて嬉しかった。目の前で井口氏&新井氏&常田氏がひとつのマイクで「煌めきを探せよ!」と歌ったときのスリーショットは、写真に撮りたかったな。
あのときの、少年感、たまらんかった。

そしてアンコール3曲目、「飛行艇
ここでもMCがあったはずですが忘れてしまいました。悲しいわたしの脳みそ。
だけれどラストシーンは覚えている。常田氏が勢喜遊氏のいるドラム台にあがり観客席には背中をみせる。楽器の音が混ざり合う。こちらに背を向けたままジャンプ。着地。

楽器の音が消える。
歓声。
鳴り止まない、拍手。


常田氏ギターを高く掲げる。おろす。にっこにこの笑顔で遠くを見つめる。
そしてここでギターを床にホイっと転がす。
マイクスタンドのとこ?に行きピックを5、6個取って、うおりゃぁ!と客席にぶん投げる。
勢喜遊氏、左手のスティックをポインと投げる。
そしてすたすたとステージ中央前方にあるいてきて右手のスティックをどりゃぁぁ!と客席にぶん投げる。さすが肩が強い。
新井氏は一番最後までステージにいてスマホでこちらを撮影し、最後まで手を振ってくれていた。
井口氏は死角だったので見逃してしまった。でも終始日本語で穏やかにMCをしてくれていて、ほっこりしたし心地よかった。
King Gnuはメンバーひとりひとりがスターだった。これほどまでに全員が「主人公」みたいなグループがあるのか。4人それぞれの定点カメラが欲しい。それぞれの演奏をじーっと見たい。このひとたちのライブは、一回観ただけじゃ足りない。
見終わったばかりなのにそんな欲望が湧いてしまうくらい、素晴らしい夜だった。


次の記憶は、とぼとぼ帰り道をゆく私の姿だ。



この日2024年4月10日のKing Gnu「THE GREATEST UNKNOWN」アジアツアー
シンガポール公演はまぎれもなく最高だった。

これがアルバムツアーでしかもそのアルバムがベストアルバムじゃないという事実が信じられない。
今日以上の興奮を体験できる日が来るのだろうか。来るとしてもそれは何年後か...放心状態だった。

そののち、ふと、
惨めな気持ちになった。

あのひとときは何かの魔法にかかり自分もスペシャルな存在になれた気がしていたが、魔法がとけて鏡を見ると、やっぱりわたしはGREATESTでもないただのUNKNOWMな存在だった。
ライブが最高でステージ上の4人が輝いていたからこそ、あらためて自分の平凡さを知る。
どこかでやり直したらわたしもスペシャルズになれる世界線があったのかな。
そんなことをぼんやりと思い、いつものようにエアポッズをつけた。
「Teenager forever」を選んでいた。

♪他の誰かになんて
なれやしないよ
そんなのわかってるんだ
明日を信じて見たいの
微かな自分を
愛せなかったとしても♪

何度も聴いたしMVも何周もした。
けれどこのときわたしの耳にはこの聴き慣れたはずの曲が、新曲のように聞こえた。


ほかの誰かになんて、なれやしない。


…だよな。

わたしは無名で、特にグレイテストでもない。
けれど、今の人生も嫌いじゃないし、自分のこともそんなに嫌な奴ではないと思っている。
それに今からだって、人生はアレンジしていけるはずだ。

隣に座ったタイの女の子は、今日のライブきっかけでやっぱあたしはKing Gnuと同じ空気吸いたいわとか思って来日して明大前あたりにタイ料理屋さんを開く。かもしれない。

前席の温室常田くん、心が狭いわたしは視界が悪くて君に対してイラっとしたときも正直、あった。
だけど最後に常田氏が投げたピックを君が拾って、彼女にプレゼントしていたのを見たよ。
さらにいうと君がそのとき「ほんとは俺が欲しいんだケド…」みたいな複雑な表情をしていたのも、おばちゃんは知ってる。
今日の日をエネルギーに温室常田くんが猛勉強とかして立派に働いて今日の彼女と結婚して家でKing Gnu聴いてこどもにギターかピアノを習わせて、その発表会では過ちを繰り返さぬよう手ぶれ補正カメラを三脚に固定してホームビデオを撮るそんな未来が、  
あるかもしれないってだけでオールオッケー。

後ろのベトナムギャルたちはライブから帰ったら速攻でもう10周くらいBANANA FISH見るでしょ。それからまた新たな推しアニメを開拓して日本のアニメと音楽を普及するラジオパーソナリティになる
ことも、なきにしもあらず。


なんだ。
まだまだ煌めきを探せる予感しかないではないか。
微かな自分を愛せなかったときは、音楽を聴いてまた自分をスペシャルにする魔法をかければいい。

降りる駅が近づいてきた。
とりあえず直近の目標を考える。
ふと、10年前に楽器屋で1万円位で買ったアコースティックギターが家にあることを思い出す。

あれを弾いてみるのは、どうだろうか。
頑張れば3年後とかにあのキュキュキュキュッて音をわたしも鳴らせてるかもしれない。

最寄り駅に着く(帰ったらこどもを抱きしめて)
電車を降りる(一息ついたらギターを触ろう)
足を前に出して(Fがむずいらしいな。まあいい、先は長いしゆっくりと、)


歩き出す。


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