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アイドルは最後まで虚像でいてよね

気が付けば二十年以上、アイドルのオタクをしていた。
小学校高学年の頃、一瞬CMに映った少年との出会いが、それの始まり。
同い年くらいの男の子を明確に『かっこいい』と思ったのは、そのときが初めてだった。

それから二十数年、その時の彼は、今もアイドルを続けている。
小学生の頃から、今日までずっとだ。
私はその間に、就職も転職も結婚も出産もした。
ライフステージが幾度も変わった。

しかし彼はその間ずっと、三十代になった今でも、変わらずにアイドルとして笑顔でファンに手を振り続けてくれている。

その笑顔のほとんどが虚像だろうと、もう大人だ。わかっている。
それでも、その中のいくつかは本物なんじゃないか、と夢を見させてくれる。
それが、私の思うアイドルの姿である。

前時代的な思考かもしれない。
でもやっぱり、私は思うのだ。
アイドルは夢を売るのが仕事じゃないのか、と。

直接的に言おう。
私は、彼女を作らないで!恋愛しないで!なんて寝言が言いたい訳じゃない。
それをあえて肯定するのは、アイドルのすることなのか、ってことだ。

『アイドルだって人間なのだから、恋愛も結婚もしていい。それでも応援するよ。』

そんな綺麗事を言えないと、令和はアイドルのオタクを名乗れないのか。
心無い言葉を浴びせられなければならないのか。

界隈には『全肯定オタク』と呼ばれる人たちがいる。
推しのやることすべてを全肯定し、まるで母のようなそれで推しを愛している人たちのことだ。

時代は、きっと彼らも、こういうオタクを求めているのかもしれない。

自分たちに幻想を抱かないでくれと、本当はこれまでもずっと、思ってきたのかもしれない。

だがそれは、私の好きになったアイドルの姿ではもはやなく、ただの『顔が圧倒的にいい男の子』でしかないのだ。イケメンインフルエンサーと、なんら変わりないのだ。

私はアイドルが好きだ。
アイドルという職業に就いた人間のことが好きなわけじゃないのだ。

そもそも、出会っているようで出会ってすらいない彼の人間の部分なんて、私はこれっぽっちも知らない。知っているのは、アイドルという虚像の彼だけ。

なのに『アイドルも人間』なのだからと免罪符のように言われてしまっては、敵わないじゃないか。
急に見せてきた実像の部分がそれだなんて、あんまりじゃないか。

急に現実。夢から醒める。

何千回何万回聴いたラブソングが、特別なあの子への言葉にしか聞こえなくなる。
何度もくれたその笑顔が、ただのハリボテにしか見えなくなる。
ずっとそうだったのかもしれないと過ぎった瞬間から、もう彼に夢は見れないし、これまでのどれもが夢だったのだと、認めざるを得なくなる。

そんなの、悲しいじゃん。

悲しいって言ったっていいじゃないか。
好きなのやめたいって言ったっていいじゃないか。
やめたいって言ったって、どうせすぐにやめられないんだ、うじうじグチグチしてたっていいじゃないか。

『お気持ち表明乙』の一言で片付けないでよ。
正論振りかざして、わかったつもりにならないでよ。
全然わかるわけないんだよ、オタクなんて大抵まともじゃないのだから。

虚像に人生捧げちゃってるのだ、まともなわけない。

まともじゃないけど、真剣なのだ。
真剣に、アイドルの彼が好きなのだ。
虚像の彼を、好きになったのだ。

これからきっと、私の知る『アイドル』は絶滅危惧種になっていくのだろう。

等身大のアイドルが時代を引っ張るのだと言うなら、それはそれで、いいのかもしれない。
アイドルのオタクなんて、やめた方が身のためだ。

それでもまだ、ほんの少しだけ夢を見てしまう。

ひょっとしたら君は、君だけは、虚像のまま終わらせてくれるのではないか、なんて。

だから君はアイドルで、私は君が好きなのだろうな。

そんな日々が、一日でも長く続いて欲しいと思う、今日この頃。


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