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【感想】感じたことが全て、PHANTASMAGORIA

 たむらしげるの絵本はまだあまり読んだことがないけど、どの作品もきっと好きになってしまう、そんな気がする。

 PHASTASMAGORIAは小さな惑星で、星空を映し出す映写機や、コーヒーポットの形をしたカフェや、雪だるまが作った冬だけの文明都市や、ガラスの海や、全てのものが四角になってしまうゾーンや、1年中雨で巨大きのこが成長している村や、密造酒を作っている町や、星人間が集まる酒場や、海に浮かぶリカーショップや、落ちてきた流し星を採取できる丘や、固形化した虹から絵具を取る人や、ガラスの海や、ビル人間や、サボテン人間や、スターメイカーなどなど、あげればキリがないほどの場所やキャラクターが登場する。そしてそのどれもが好きになってしまう、おかしみやかわいさをもって描かれている。

”宝物感”

 たむらしげるの作品は、”宝物感”がある。その宝物感の正体は一体なんだろうか。それを直接表現することはできないが、「君は大切な人だから、この世界についてこっそりと教えてあげるね、他の人には秘密だよ」と言って勧めたくなるような、繊細で優しく美しい、それでいてとても温かいなにか、という感じがする。

たむらしげるは「よるのおと」で産経児童出版文化賞大賞を受賞した時のスピーチでこのように語っている。

 ここ最近、いわゆる「読者受けする絵本」が数多く見受けられます。その絵本を読むと、面白いけど何か足りないな、と感じることがあります。
 何が足りないのか考えてみますと、子供にとっての宝物感がないのです。この宝物ってなんだろうか。それは子供の心の奥底に沈みこみ、大人になってもひっそりと輝き続ける何かです。消耗品でない、宝物を秘めた絵本を作りたいとずっと思っていました。
読者から、この絵本の意味を聞かれたことがあります。もぎたてのフルーツを食べるように、そのまま素直に味わってね、それだけで良い、と答えました。

これまでの人生で”宝物感”がある物語には数えるほどしか出会っていないが、たむらしげるに出会ったことでまた宝物が増える感じがあって、これからが楽しみだと思う。

 気のせいはない

 上で引用したたむらしげるの「もぎたてのフルーツを食べるように、そのまま素直に味わってね、それだけで良い」という言葉を見て、片桐はいりが台湾で仙人みたいな人にお茶いれてもらった時のエピソードを思い出した。

何煎も何煎もいれてくれるんですが、
味が一煎ずつ変わって行く感じもおもしろくて。
感想を言いながら飲んでて、
「このお茶はさっきのより
まろやかだと思うんですけど、気のせいですかね」
と私が言ったら、その人が、
「気のせいはない。
感じたことがすべて!」と言ったんです。
それ以来、「気のせいはない」というのが
私のお気に入りの言葉です。

 自分は大人になってからたむらしげるの本に触れることになったが、しっかりと物語は心に沁み込んで、これからも温めつづけてくれるにちがいない。その良さは「すごく良い」という言葉よりも適当な言葉が見当たらないが、その言葉にはできない良さは「気のせいではない」と思うし、「この良さは言葉にできないね」と言うことで分かり合えるような、そんな作品だと思う。

 以上、ふわっとした感想でした。PHANTASMAGORIAは本当によかった。そう感じたことが全てなのですが、つらつらとつぶやき的に書いてしまいました。しかし最近は、こんなふうに心底没入できる物語を欲していたので、たむらしげると出会えてよかった。

最後まで読んでくれてありがとうございました。

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