見出し画像

シンカンセンに運ばれて

かなり久々に乗ったのぞみ号は相変わらずの快足だった。

東京から2時間もあれば名古屋や京都、ちょっと足せば大阪まで連れてってくれる白いヤツ。

いつも乗ると新横浜~名古屋間で爆睡をかましていることが多いのだけれど、その爆睡のさなか、新幹線が擬人化して脳裏に現れてふと目覚めることがある。

子どもの頃「ヒカリアン」を見ていたせいかもしれない。車輪を猛回転させて重厚な鉄路を猛烈な摩擦力をもって爆走していくものが、不思議なことに足で走っているかのように思えてくる。タタタという風に地面を駆け出していく少年少女のような可愛らしさはない。むしろ自らの速さも相まって、助走つけた途端から浮遊しているようなイメージだ。実際は旅客機を思わせる音だから寝ている最中とはいえ不思議な感じ。

この体で各々の目的地へ、今や急げやと、とはいえ息を切らすことなく走り通しているように思える。よくよく考えればマラソン選手でも1,2時間も走ればもう息も切れ切れ、インタビューの受け答えも息絶え絶えできつそうだ。いくら速くても200キロ台後半を人間の自らの脚力で出せたらもはや公害級だろう。と現実に戻る。

そういえば、荷物を荷棚に上げるという行為を初めてした気がする。電車には数えきれないくらい乗っているが、忘れそうで怖い。盗られないかといった不安があって、結局は足元に落ち着く。荷物を覗きこむと荷物はビタッとそこに鎮座していた。これを書いている奴はトイレで足をよろよろさせていたというのに大したもんだ。
そんなどうでもいいことに感心しているともう降りなければならない。

駅に白い車体が滑りこむ。非常に滑らかに停止し扉が開くと、私はいの一番に降りたった。

毎回思うが、ホームに降りたっただけでは目的地に着いた感じすらしないものだ。通勤電車に乗り換えると人々の動きや言葉がいつもとちょっと違う。それでああ着いたんだとようやく実感する。
新幹線たちがいるホームから彼等の演出は始まっているのかもしれない。この運ばれた時間はささやかな夢心地の合間ですら幻想的に思える、そんなひとときだった。

サポートいただけたらnoteのネタとして使わせていただきます。 サポートしてくださる気持ちだけでも歓迎です!