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とあるプロジェクトの立ち上げ記録 D×2真・女神転生リベレーションの場合 その3

前回の記事はこちら。

そろそろ本筋のD2の話に戻ろう、と思っているのだが、またぞろ本稿はちょっと遠回り気味のお話になったりする。ただし、タイミングとしてはここで書くべき話なので少々お付き合いいただきたい。これも立ち上がりの記録には間違いないからだ。

D2の骨子は考えた。じゃあ、どうやったらそれが実際にプロジェクト化されるのだろうか?というのがこれからの話である。

企画って、どうやったら通るんですか?

よく、新人面接なんかでこんな質問をされた。まあ、皆さんにとってもこれは謎ではあるだろう。ただ、これに関しては結局のところ「偉い人が『OK』と言ったら通ります」としか回答のしようがない。数億という予算で作るゲームにGOが出るのは簡単ではないし、プロジェクトを進めうるための判断には様々な要因が結びつく。一筋縄ではいかないのだ。

僕はプロデューサーという立場なので、良いタイミングで企画を偉い人に通してしまえばプロジェクトは立ち上がるわけだが、D2に関していうと、そういうルートで成立した形にはならなかった。

D2は、セガネットワークスの社内の企画コンペを通じて承認された企画なのだ。

ボトムアップ企画の壁

セガネットワークスの企画開発部(ゲームプランナーの部)の部長をやっていた時、若手から「企画がどのようなルートで成立するのか不明確」というような不満を聞くことがあった。

まあ、そういう人ほど自主的に企画を提出するようなタイプではなかったりするので

「そんなものはねえから、自信があるなら偉い人に直接企画持っていけや!」

と突き放してもいいのだが、僕はいい人を装っているので丁寧なアドバイスなど送ったりしていたものだった。ただ、なかなか大きい会社になると、そういうプロセスは確かに見えないだろうし、タイトル編成は会社の重要な戦略部分なので、上位レイヤーで決まっていることも多い。

そもそもボトムアップで企画が成立することは稀である。かつ、開発は「開発するのが仕事」なわけなので、企画を書くのも忙しくてままならない。そうしてどんどんと企画を書かなくなっていくと、よりボトムアップから企画が成立する確率は低くなり・・・という悪循環が発生することになって、なんとなく「企画が通らない」という閉塞感のようなものが生まれることになる。

別に僕がいちプロデューサーとしてならば企画を出すライバルが減るわけだから知ったことではないのだが、ゲームプランナーが集まる部の部長としては人材育成という面でも、モチベーションコントロールの面でも問題がある。

そこで、僕は自分の部主催で企画コンペをやることにしたのだが、結構この「企画コンペ」という奴も厄介で、コンペを通ったとしてもプロジェクト化されることが少なかったりする。そうすると最終的に企画を書くレクリエーションの場にしかならなかったりして、形骸化していくパターンが結構あるのだ。

なので、僕は「企画コンペを行って、必ずプロジェクトをそこから生み出す」ということを目標にしていた。そのため、コンペの形式に一つ工夫を入れることにした。

それはいたってシンプルなものなのだが「企画コンペを通すことを、プロデューサーの評価に加えた」というものだ。

プロデューサーの仕事とは?

これも結構聞かれる質問なのだが、僕定義ではプロデューサーとは「企画を成立させる」ことができる人間のことだ。そうでなくても、プロデューサーという肩書の人はいるのだが、そういう人は「プロジェクトマネージャー」という呼称が仕事の内容としては近いだろう。

僕としてはプロデューサーという肩書の人の力もその場で見せるべきだと思っていたので、企画コンペ自体を最終的にプロデューサーを競わせる場にしたのだ。やり方はこうである。

・1次選考は簡易なコンセプトだけをプランナーメンバーが提出。
・提出された企画書をプロデューサーが確認し、気に入った企画をブラッシュアップ。
・2次選考ではプロデューサーが「自分の企画」としてプレゼン。
・プレゼンでの評価は、そのまま人事評価に加える

この中では「プロデューサーが『自分の企画』としてプレゼン」というのが最大のミソだ。「若手の成長を助けてあげよう」みたいな形で、絶対に通らないような企画を持ってくる人もいるので、そういうことではなく「自分が通す」つもりで持ってこい、ということをフォーマットに込めたメッセージにした。本気で通すつもりでないと、企画など通らない。

1次案のタイミングでたまたま「サマナーズウォー」をベースにした企画があった。僕はこれを提出したOさん(D2の初代ディレクター)に「この企画をメガテンでやりませんか?」と声をかけ、二人で企画を提出し、プレゼンを行った。

そして、コンペではこの企画が最優秀賞となり、オープンな形で企画が進行することになったのだ。

結果、その後の企画プレゼンでも、たくさんの企画が皆から提出されるようになり、採用などに関しても「うちはボトムアップからでも企画を立ち上げる環境があるんですよ」と胸を張ってアピールできるようになった。ささやかな話ではあるが、僕のマネージメントの仕事としては成功の一つとして語っていいことだと思ったりしている。

そういう形でD2の企画はめでたく偉い人の承認を経て、プロジェクト化に向けて足を進めることになったのだが、次には絶対にクリアしなければならない壁が最大のハードルとして存在していた。セガの人間が勝手にメガテンのスマホ版を作っていいわけではないのだから。

そう。この企画を進めるためにはアトラスさんに企画を進めてよい旨の了解を取らなくてはならないのである。

ということで続く!

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