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みんななにかと戦っている。~後編~

人生に劇的なことを期待してはいけないと貝木泥舟は言った。

自分で見返しても前編はなかなかドラマティックな展開に読み取れる。長文を書くのも久しぶりだが、仕上がりとして悪くはない。ただ、あの話から、あんまり「悲劇のヒーロー」みたいな受け取られ方をするのは本意ではない。コウテイの能力値に「明確な強さをつける」というのはいくつかの手持ちのカードの中の一つを切ったに過ぎない。絶対にやりたくないことであればやらなかっただろう。

あそこで伝えたかったことは、複数のステークホルダーがいる中でそういった判断を都度行っていく、というのは運営タイトルの中ではよくあることだ、ということだ。悲劇的でも、喜劇的でも、過激的でもない、極々一般的な会社の日常なのである。

俺たち任天堂の倒し方知ってますよ?

と某企業の採用の人が言った、とう流説がある。どこかで聞いたことがあるだろう。本当に言ったのかどうかは知らないが、いわゆるソーシャルゲームが幅を利かせていた時代を象徴する言葉としては良くできた話だと思う。

数千万で作ったゲームが数億の売り上げをたたき出しては消滅していったあの頃のスタイルは完全に焼畑農業の時代である。「焼け!」という指示を本当に受けた人の話も聞いたことがあるぐらいだ。コンテンツを作っている身としては口が裂けても言えない言葉だ。恥ずかしげもなくよく言えるな、と思う。

しかし、そんな時代はとうに過ぎ去っている。長く運営を続けることと、それに耐えうるコンテンツを作ることが求められている。焼畑農業では、最終的に会社もユーザーも得しないのだから当たり前だ。

こう質問箱に回答したわけだが、細かい内情は知らないし、知っていても言わないので確たる根拠などあるわけがない。

運営タイトルのプロデューサーとしてはそうしないために、サービスを続ける努力をするというのが仕事である。そのためには時にはユーザーの不利益になることもあるかもしれないが、「石にかじりついてでも続ける」という姿勢が見える限りはやる気があるのだと推測できるので、そう回答した。

もちろん、ユーザーに不利益なことをした場合、そこで叩かれるのはやむをえまい。プロデューサーとして前に出ている以上、そういう覚悟を持つべきだ。

なぜスマホゲームのプロデューサーは罵詈雑言を浴びるのか?

叩かれるのは仕方がないことだが、僕も人間なので、悪口を言われれば凹みはする。最初にFree To Playのタイトルを担当したのは「サムライ&ドラゴンズ」である。このタイトルでは様々なことを学ばせてもらったのだが・・・

※貼っといてなんだが、サービス終了しているので絶対に買わないでほしい。

とにかく、サムドラ以降「山田氏ね」とか「山田はクソ」とか「山田は座布団運んでろ」などという書き込みが至る所にされるようになった。

これにはちょっと面食らった。サカつくのプロデューサー時でも「しゃしゃり出るな」「あいつの白いジャケットは伊勢丹か丸井だろう(←正解)」などとは言われていたものの、これほど罵倒を受けるとは思っていなかったのが正直なところである。

なぜ、スマホゲームのプロデューサーはそこまで叩かれるのだろうか?

それは、売り切りゲームと運営型のゲームの本質的な違いに起因する、というのが個人的な考えだ。その本質的な違いとは何か?以下は昔作った資料より抜粋している。

両者は売っているものが違うのだ。

パッケージゲームは「作家性」を売っている。一方、運営タイプのゲームは「サービス」を提供して対価を得てるのだ。好きなゲームの「作家」と好きなゲームの「サービス提供者」に払う敬意というのはおのずと差が出てくるものである。

そういう理由で、運営タイプのゲームというのは当初から叩かれる宿命を背負っているようなものなのだ。つまり、運営タイトルのメンバーというのは、会社だけでなく、ユーザーからも圧力を受け、360度から全方位攻撃を受ける状態に結果としてはなってしまう。

このことに気づいてから、自分としてはより前に出るようになった。なぜかというと、プロジェクト全体が叩かれるよりも、個人が叩かれる方がマシだと思ったからだ。

実際、運営メンバーはすごくつらい思いをしている人が多い。トラブルには24時間対応せねばならないし、開発サイドと揉めることもしばしばある。何か不手際があれば真っ先に責められるのは運営であるし、根本的に褒められることが少ない仕事だ。耐えかねて病んでしまう人も少なくない。逆に色々と言われ過ぎていてユーザークレームに慣れてしまっているメンバーもいる。ともに健全ではないのだ。

だが、「●●はおかしい、ドラゴンマスク氏ね」「●●いつになるんだ、早く更迭しろ」というワンクッションが入れば彼らも多少客観的にものを見ることができるだろうし、実際そういう効果はあったとは思う。「山田さん、大変ですね」と気遣われることもあったが、別にそれはプロデューサーとして仕事の範疇だと思っている。

それでも、そんなことはユーザーには関係がない。

とはいえ「運営も大変だから」とか「色々あるだろうから」とかいう忖度をして、ユーザーが感じていることを運営サイドに言うな、ということでは決してない。

再三繰り返すが、

「そんなことは一切ユーザーに関係ない」

のだ。ゲームは楽しんでやるものだ。感じるままにゲームをプレイしてほしいし、楽しんでほしい。そして良くないところは良くないというのも大事なことだ。ユーザーから届いた声を聞いて改善していき、お客様の満足度を高めることこそやるべきことである。サービスなのだから当然だ。

ただ、彼らも戦っている身である。なんのためにやっているかというと、結局のところ「長くサービスをするために戦っている」わけだ。それは理解してもらえるとありがたい。

そして、褒めるようなことがあれば褒めてあげてほしい。文句を言うゲームの中でも、なにかしら面白かったり、良い面というのはあるはずだ。完全に無いのならば、さすがにそのゲームは辞めるべき時だろう。

雰囲気の悪いSNSの中で、それを褒めることもは難しいかもしれない。龍オンの時も、質問箱に感謝の感想をいただくこともしばしばだった。決まって彼らは「この質問に答えなくていいです」と言う。荒れるのが嫌なのだろう。当然だ。そのために、アンケートなり問い合わせフォームのようなものが存在する。良いことがあったタイミングでは、そういったところを褒めていただければ、多少なりとも現場が救われるところがあるのではないか。そう考えている。

今は何かと悪意が表に出やすい時代である。アプリにも気軽に押せる「いいね!」ボタンでもついていれば、多少は運営も救われることもあるのかもしれない。

退職してたくさんの温かい言葉をいただいた今は、特にそう思うのである。

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