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ゲームの企画を通す ~前編・みんな、ハーマイオニーになろう~

前回記事からだいぶ時間がたってしまったわけだが、実際この続きをどうしようかというのは結構悩んでいたところだ。セガならまだしもアトラスさんも絡んでいる話なので、そんな詳細の話はできないし・・・うーん・・・。

と下書きに書いたり消したりしているうちに結構忙しかったこともあって、なかなか続きを上げられなかった、ということになる。続きを楽しみにしていた方、すみません。

と、いうことでまず今回はテーマをこの話にしてみた。一般論だ。これからゲーム業界を目指す人や、プロデューサーになりたい人、若手の企画者向けに、まず一般論を語る。皆さんそこから類推できるものを、なんとなく想像してもらえると、続きが書きやすい。

「学生が書いたみたいなみたいな企画だな、これ。」

若手の企画のコンペなどを見ていると、結構こういう指摘をされたりする企画書があったりする。「面接とかで学生が提出してくる企画書」というようなニュアンスだ。

断っておくが、ゲームのアイディアが面白くないとか、素人臭いとかそういう話ではない。学生が考えようが、素人が考えようが、面白いものは面白いし、面白くないものは面白くない。むしろ自由な発想は素人の方があるだろう。ゲーム開発者だからみなアイディアがあるわけでもないし、つまらない企画を出す奴は死ぬほどいる。

また、「上手く企画書を書けているか?」という話でもない。例えばゲーム専門学校出身の子の企画は、例外なく上手くかけている。ツールを使って上手に図示をし、論旨の順番も整理されていて、「なるほど、上手だなあ」と思うことが大半である。というか、テクニック的なことでいうなら、僕より上手い人間は素人の人でもザラにいる。僕は下手くそな部類だ。

それでも僕の企画は結構通る。いや、「通りそうな企画」と思わせることが出来るのだ。なぜだろうか?

「学生が書くような企画」と揶揄される、若手や素人の人が書く企画には、大体の場合ある決定的な要素が欠けているからだ。そのことに気が付いてからは、僕の企画書の書き方は変わったし、がぜん「通りそうな企画」を出せるようになった。

その決定的な要素とは、これだ。

「企画にステークホルダーの意向が一切反映されていない」

一言で言うと、そういうことになる。

ゲームにおけるステークホルダーとは誰か?

ステークホルダーとは「利害関係者」を表すビジネス用語だ。結局のところ、これを満たすような企画でないと通ることは絶対にない。「学生が考えた企画」というのは、その利害関係者の意向を完全に無視しているか、あるいは利害関係者そのものを見極められていないか、のどちらかである。

「利害関係者のニーズ+アイディア」

これあって初めて企画として成立する。これはゲームに限らないだろう。最終的に重要なのは「アイディア」の部分であり、そこは素人だろうが玄人だろうが関係がないわけだが、ステークホルダーを無視しては企画としてそもそも成立しない。

ではゲームの場合のステークホルダーとは誰にあたるだろうか?

1.ユーザーのニーズ(ゲームが発売する時点での)
2.会社、あるいは組織のニーズ
3.出資者のニーズ
4.その他関係者のニーズ

ざっとこう整理できる。一応、個人的に重要と思う順番に並べている。ユーザーは顧客なので最も大事だが、ゲームの場合は発売までに時間がかかるので、ここを見極めるのが最も難しい。ゲーム企画の難しいところだ。

例えば「パズドラ」が出た後に出たベタなブラウザ系のスマホソシャゲなほとんど壊滅的な状態になってしまった。1年前はそれが正解だったのに、だ。「チェインクロニクル」が出た後、RPG企画を作っているところは青ざめただろう。チェンクロ以降にキャラクター性のない今までのスマホRPGを出したところで、ユーザーには受けないのがほぼ確定的だからだ。

移り変わりが早いモバイルゲームをやっていたここ数年間は、先の動きを考えるという思考がだいぶ身についた。個人的には良かったことで、企画者としてレベルアップしたと思っている。

なので、企画者は世の中の動きには敏感であるべきだ。「鬼滅は別に面白くない」「半沢直樹は顔芸ばっかり」という感想を抱くのは結構だが「それが流行っているのはなぜか」という思考は常に持たないといけないのだ。年をとれば取るほど、世間とのギャップは生じるので、その答え合わせは常にしていかなければならない。

「教えて差し上げるわ。魔法省がホグワーツに干渉するということよ」とハーマイオニーは言った

1は未来予測なのでどうやったって難しいのは変わらないのだが、2は本当は簡単なはずである。なぜなら会社や組織の都合は外部にいる人間よりも内部の人間の方がわかりやすいからだ。

だが、意外とその「ニーズ」は下のものまで伝わっていないことが多い。そして、不幸なことに、上の人間としては伝えているつもりだったりする。

「ハリーポッターと不死鳥の騎士団」でこんなシーンがある。新任のアンブリッジ先生がホグワーツに赴任する際、冒頭でわかりにくい言葉で一大演説をする。ハリーやロンのみならず、大変の生徒が眠くて興味が失われている中、その演説をじっと聞いていたハーマイオニーが、その演説に込められた意味を正確に把握して、その後起こることを予言するのだ。

アンブリッジ先生はあえて意図をはぐらかして演説をしているわけだが、世の中には大事なことを伝えたいのにアンブリッジ先生のようにふるまってしまうことが多い。大事なことを伝えるために事業計画の説明会があったり、部署の定例みたいなものがクォーター単位であったりするわけだが、残念なことに、プレゼンテーション能力の欠如によって、皆をハリーやロンのようにふるまわせてしまうわけだ。

だがそんな文句を言っていてもしょうがない。眠くなって仕方がないだろうが、上の人が発信していることにはなんらかの意思は反映されている。ゴミ溜めの中から宝モノを拾うような作業でうんざりはするだろうが、それでも企画を通すためだ。

がんばって眠い目をこすりながらメモでも取って見て、ハーマイオニーになることを目指して見るべきだろう。

ということで、D2の場合どうなるのか、考えてみよう。当時は2016年ぐらいの状況だろうか。

1.ユーザーのニーズ(ゲームが発売する時点での)
→メガテンユーザー+スマホRPGファン
2.会社、あるいは組織のニーズ→セガ
3.出資者のニーズ→セガ
4.その他関係者のニーズ→アトラス

ステークホルダーはこうなるだろう。彼らのニーズとはなんだろうか?少なくともD2はこれを満たしていたから企画が通ったのである。

もしあなたが「企画が通らない」と悩んでいるのならば、ステークホルダーについてまず考えてみるべきだ。そういうことがスッと出てくるようでないと、「通りそうな」企画というのは立てられないものだ。

ということで企画立案の話は次回も続くよ。


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