44歳、初めての転職 ~後編~

ダメ人間を伸ばす方法

いきなりでアレだが、僕は相当ダメ人間である。一応ユーザーの前では真面目な人のフリをしているし、割ときっちり仕事をするのであんまり気づかれないのだが、根っこはただの自分のやりたいことしかしたくない、「ただのオタクな怠け者」なのだ。

セガにいるときの最後の所属はいわゆる「龍が如くスタジオ」だった。出戻りのような形で戻ってきた「龍スタ」は本当に居心地がよく、仕事がしやすい環境だった。

信頼できる上司がいて、頼れる同僚がいる。それなりに若いメンバーからも尊敬され、彼らに経験を伝えながら成長を見守る。環境に関しての不満は全くなかったと言っていい。

だからこそ、こういう不安を覚えることがあった。

「このままこの環境に甘えてしまうのではないか?」

と。

「インターナショナルなゲームを作る」
「ホームランを打つ」

ともに、龍スタでもトライできることだと思う。ただ、僕に課せられた「マスト」ではない。そういうことをしなくても、今持っているスキルを活かして仕事をするだけでも、たぶん生きていけてしまうのだ。

そうなるとダメ人間としては堕落の始まりだ。スマホゲーム部署時代はメチャクチャ大変ではあったのだが、「やらねばならない」という使命感で自分を鼓舞することが出来た。結果色々な仕事が出来、能力も上がったと思うのだが、そういう環境でないと、真面目な自分を維持できる自信がない。

自分の時間を使って勉強やスキルアップをしている意識の高い人は本当にすごいと思う。不真面目で勉強嫌いだった僕には土台無理なことだ。どうしても自分のやりたいことを優先してしまう。先日も三国志14のトロコンをしてしまった。ちなみに三国志13もトロコンしている。おおよそ真面目な意識の高い社会人とは言えないことはお分かりいただけるだろう。

そういうダメ人間を伸ばすためには「精神と時の部屋」に入るしかない。ドラゴンボールであった、過酷な環境のアレだ。無理やり自分を追い込む。これしかない。仕事は逃れられない環境なのだから、仕事をキツくするのが一番だと思っている。

そこへ来たのが今回の転職の話だった。聞けば確かに死ぬほど大変そうである。上手くいくかなんて、全くわからない。というより上手く行かるというのが自分の仕事なわけだから、出来なかったらはっきり言ってクビだろう。

しかしだ。

ここを潜り抜けることが出来たなら。魔人ブウだかセルだかには勝てるようになるわけだ。よしんば勝てなかったとしても、経験は自身を成長させる。少なくともスーパーマンに一歩近づける。そう思ったのだ。

リスクを冒して攻める。その方がいい人生だと思いませんか?

この言葉は、敬愛する元日本代表監督、イビチャ・オシムさんの言葉である。

「オシムの言葉」は名著すぎるのでぜひ皆さんに読んでもらいたいところであるのだが、ここは割愛。

だが、現実問題リスクを冒して生きるというのは勇気がいることだ。

転職というのは当然リスクだ。安定した環境、それなりの立場を捨てて新しい道に進むというのはそれなりな覚悟がいるもので、簡単な決断ではない。当然今回の話があった時も、悩むことはたくさんあったと記憶している。

ちょうどそのころ、一つのゲームが世の中に出た。

そう、「デスストランディング」である。

本作品をやって、僕はストレートに感動した。

裸一貫になった小島さんが世の中に出してきたのは、メタルギアでもP.T.でもない、荷物を運んで人とつながるゲームだったのだ。

デスストや小島さんについて語り始めるとたぶん止まることがないと思うのでやめておく。ただ、本作を持って、僕の中では小島さんは神になった。ゲームが面白いとか、面白くないとかもはやそういうことではない。「ゲームデザイナー」の生き様を見せられた気がした。それぐらいのインパクトがデスストにはあった。

僕は自分のことはゲームデザイナーではあってもクリエイターではないと思っている。だから、小島さんのようになることは決してできないだろう。でも、同じように、裸一貫で新しいチャレンジをして成功させることが出来たならば、少しでも小島さんの領域に近づくことが出来るかもしれない。

デスストがなかったら転職しなかった、とまでは言わないが、少なからず気持ちを押してくれたのは間違いがない。

だからこそ、おすすめゲームとしてデスストを挙げた。回答としては面白みがなかったかもしれないが、本当にそうなのだ。小島さんの作品は、僕に「リスクを冒す勇気」を与えてくれたのである。

やっぱり僕はスーパーマンになりたい。

そして、自分の考えはシンプルになった。くどくど悩んだり考えずに、自分はスーパーマンになることを目指せばいい。

時代は変わるし、社会も変わる。ゲームを取り巻く環境だってどんどん変わっていくだろう。年は取っていくし、若い人の感覚とのズレが埋まらなくなることもあるかもしれない。

だが、それに合わせて自分もできることを増やしていけば、何も恐れることはない。いつでもどこでも必要とされる実力と経験を備えていれば、「クビになるかも」とか「立場を守る」とか、つまらないことを考えなくてよいのだ。

こんなことを考えていたくはない。不確定な未来を予測するのも、何かにすがって生きようとするのもくだらないではないか。面白い企画を、面白いゲームをつくるために自分はゲーム業界を選んでいるのだ。乏しい自分の脳みその処理能力はそちらに使いたい。現実世界のめんどくさいことからは逃げて生きたい。

「企画はスーパーマンじゃなきゃいけないんだよ。」

まさにそうだな、と改めて思う。そして、転職を決めた理由は一つではないが、簡潔に言い表すと、僕の場合はこうなるのだ。

そう、スーパーマンになりたいから。
生涯ゲームデザイナー/ゲームプロデューサーとして生きていきたいから。

カッコつけた言葉ではあるかもしれないが、大真面目にそう思っている。


まあ、ちょっとは給料も上がったんですけどね・・・。ちょっとだけね・・・。


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