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【子供のことば】「わんわん」じゃなくて「わうわ」となる正当性

幼児語には、擬音語や擬態語が多いこと、以前も触れました。

最初の意味のある言葉は、「ママ」「パパ」のほかに「ブーブー」とか「わんわん」などが挙げられると思いますが、この「わんわん」、実は最初は「わうわ」と発音していませんか?

2歳2か月の次男ボンちゃん、動物では犬と猫を指さしながら言えるようになりましたが、犬は「わんわん」ではなく「わうわ」と言っています。
実は長男ギー君も全く同じで、初期は「わうわ、わうわ」と言っていましたが次第に「わんわん」と言えるようになりました。
最初は「わうわだって(笑)」とほっこりしていたのですが、よくよく考えるとこの発音にはちゃんと正当な理由があるのです。

「ん」の発音は一種類ではない

「ん」のことを「撥音」と言ったりしますが、日本語では特殊音素と呼ばれ他の音と区別されています。
特殊音素には他に「促音」(小さい「つ」)、「長音」(伸ばす音)がありますが、いずれも外国人が日本語を学習する際、習得が難しいとされています。

今回はこの「ん」に焦点を当ててみますが、一言で「ん」と言っても実は音声学的にはいくつもの種類があります。
すぐに思い浮かぶ発音記号(国際音声記号)は[n]ですが、そのほかにも実は[N]とか[ɲ][m][ɧ]なんかがあります。
どうしてそんな違いが出るのかと言えば、次に来る音によって変わるわけです。
例えば歯茎(歯の裏)を使って出すタ行やダ行などの前は[n]です。「はんたい(反対)」とか「おんど(温度)」などがこの音です。
[m]は唇が合わさった音(両唇音)の前に出る音です。マ行、バ行、パ行の前の「ん」で「かんばん(看板)」「うんめい(運命)」とか。
英語でもm、b、pの前の「ん」はnが来ることはなく必ずmが来ます。
この辺りは特に意識しなくても、後に来る音によって自然に適切な音が出ますが、外国人にとって難しいのは①「ん」の後に何も来ない場合、つまり「ん」で終わる場合と、②「ん」の後に母音や半母音など口を閉じない音が来る時です。

①は、よく外国人がはっきり最後まで発音しすぎて「ほん(本)」を「ほんヌっ」となってしまったり、「ごめんヌっ」と聞こえたりする現象があります。
日本人の語末の「ん」は実はソフトなのです。たまに聞こえないほどに。

②には例えば「れんあい(恋愛)」とか「ほんやく(翻訳)」があります。これの何が問題かというと、他の「ん」、つまり[n]のつもりで発音すると次の音にくっついてしまい、「れんない」や「ほんにゃく」のように聞こえてしまうわけです。
ローマ字で書いても「renai」「honyaku」となるわけですから、「れない」「ほにゃく」に近くなってもおかしくはありません。

日本語学習者に対する「ん」の指導法

では、どうやってこの不自然な発音を直すかですが、国際交流基金『音声を教える』では「ん」を母音で置き換える、という方法を紹介しています。
例えば、「れんあい(恋愛)」は「れいあい」、「ほんやく(翻訳)」は「ほいやく」と発音させるわけです。
文字で見るとおかしいと思うかもしれませんが、素早く発音すると驚くほど聞いているほうには違和感がありません。

話を初めに戻すと、「わんわん」の1つ目の「ん」は②の「ん」です。母音と非常によく似た音であると言えます。つまり「わうわん」と認識するのはしごく自然なわけです。
2つ目の「ん」は①の「ん」、つまり語末です。意外にソフトで聞こえないこともあります。
すると!見事「わうわ」が出来上がるわけです。

何の偏見も先入観も持たない幼児の耳が、いかに正確であるかを思い知らされます。
そして同時に、『音声を教える』執筆者の先生方、素晴らしすぎて感服です。











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