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【外部イベントレポート|後編】獣医コミュニケーション研究会 2022年 年次大会

2022年9月17日(土)にヤマザキ動物看護大学 南大沢キャンパスで行われた「獣医コミュニケーション研究会 2022年 年次大会」に、弊社代表の野間が登壇いたしました。

この年次大会は、獣医コミュニケーション研究会が2018年から定期的に開催しているイベントです。

開催地となったヤマザキ動物看護大学

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「獣医コミュニケーション研究会」とは?

これまで動物業界では、治療成績が振るわない動物病院や生産性の上がらない畜産業の現場に対し、状況の改善に向けて獣医師や畜産関係者による学術的な指導が行われてきました。しかしそのような介入で成果が得られなかったことは多く、それらは「現場に携わる組織の仕組みや人間関係」に問題のあるケースがほとんどであることが判明しました。そこで、知識や技術を現場へ教えることで問題を解決しようとする従来の発想を転換し、「その場に携わる人々(飼い主、酪農家、家族、従業員等々)の意欲を高め、彼らが主体的に動ける仕組みづくりに取り組む」ことが成果向上に繋がるとして、コミュニケーションスキルを中心とした心理・社会的なアプローチの普及活動に取り組むべく発足したのが「獣医コミュニケーション研究会」です。帯広畜産大学の門平睦代 教授を初代会長として、2007年4月15日に発足しました。研究会の会員は、

  1. 講習会やワークショップの開催
  2.情報発信(各種手法や事例の紹介、書籍の出版など)
        3.会員の自己研鑽(会員同士の勉強会など)

など自発的な活動を全国各地で行っています。
公式サイト:http://ndk.umin.jp/ 
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今大会のテーマは「多職種連携」

2023年春から新たに国家資格として誕生する「愛玩動物看護師」のほかに、トレーナーやトリマー(グルーマー)、削蹄師・装蹄師、人工授精師、防疫官など、獣医療の現場ではさまざまな職種の人が携わります。本大会では、各職種がいまどのような状況で、今後それぞれがどのような連携をしていけるかの考えを深める機会となりました。

プログラムはパネルディスカッションと基調講演の2部制で、野間は第1部のパネルディスカッションに登壇いたしました。本大会は獣医コミュニケーション研究会の会員以外も参加でき、パネルディスカッションは現地でのみ視聴可能、基調講演は現地に加えてオンライン配信も行われました。

本記事では社外活動記録として、イベント後半の「基調講演」についてレポートします。

ノマ登壇の「第1部・パネルディスカッション」は前編をお読みください
>>前編を読む<<

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第2部 基調講演

〜多職種連携における 信念対立解明アプローチ〜

第2部では「多職種連携における信念対立解明アプローチ」のタイトルで、吉備国際大学 作業療法学科の京極 真 先生によるオンラインでの基調講演が行われました。

京極先生は、チーム医療でよくみられる価値観のズレや意見対立、人間関係の破綻といった問題に対し、どのように対処するのかというコミュニケーション論を構造構成主義という哲学を基盤に初めて体系化された方です。

第1部でのパネルディスカッションでは、野間を含むスピーカーたちから、獣医師など他者と連携する際の人間関係構築の難しさが語られることがありました。

原因としては以下のようなことが挙げられます。

・社会的な立場の違い
・その職業では常識となっている知識の違い
・その職業が役割を果たすために重視することの違い
・従事する人間の(性格を含めた)価値観の違い

京極先生は、こうした人間関係構築に関わる問題を「信念対立」と定義しています。

信念対立とは意見や価値観の衝突で、「本人が疑いを持っていない認識(世界観)である信念」をめぐり、人間社会で生じる対立のことだそうです。

野間がお話ししたトリミング業界の例でいえば、

「不確かな情報を支持する専門家や飼い主さんと、そうでない人が話し合っても、一向に分かり合えない」

とか、

「トリマーが、クライアントである飼い主さんの意向を尊重すべきか、プロとしての判断を重視すべきか迷ってしまう」

という場合に、信念対立が発生していると考えられるでしょう。


信念対立のメリットとしては

・衝突することで人々の多様性に気づくことがある
・意見や価値観の対立がきっかけで、相互理解が深まることがある
・信念対立によって問題が明らかになり、改善点を見いだせることがある

というものがありますが、下記のようなデメリットのほうが全面に出やすいのが現実です。

・とにかくしんどいので、心身にダメージを与えることがある
・パフォーマンスや結果を劣化させることがある
・信念対立がきっかけで人間関係、社会関係が破綻することがある
・争いに発展することがある

そして信念対立をそのままにしておくと、下記のような結果をまねく恐れもあるとのことです。

・権力への盲従
・社会的手抜き
・メンバーの意思決定の質や行動力低下
・創造力の低下

信念対立は、世界観の衝突を起点として、それにあわない対象を攻撃、否定、非難する形で表れるのが典型です。

これを解消する可能性の哲学的実践論として、まず多様な世界観を承認し、その上で必要に応じて協働が成立する条件(状況・目的・方法)を考える、という「信念対立解明アプローチ」があると京極先生は仰いました。

信念対立解明アプローチは、世界観を徹底的に相対化すること、つまり「お互いの持つ世界観の目的と状況を整理すること」から始まります。
あらゆる物事の意味や価値は目的と状況によって決まるため、そこを整理できれば、対立する世界観に出会ったときに「自分には理解できないけど、そういう捉え方もあるんだな」と思え、他の世界観の成立を承認できるというのです。

「人それぞれ違う世界観があるんだ」という理解のステップをお互いに踏んだら、その違いを越えて協働するために「条件を作る」ステップへと移ります。「目的」と「状況」を共有し、「状況」と「目的」に適した「方法」を柔軟に選択、実行していきます。信念対立に対応できる万能の「方法」はないため、「状況」と「目的」に応じてあの手この手でやりとりしていく必要があります。

この方法には意見や価値観の衝突の一般的な対策である「回避・服従・強制・妥協・協調」という方法を使うことができます。

回避とは、話し合いを避けること。

服従とは、納得できないけども、したがうこと。

強制とは、権力を使って意見を押し通すこと。

妥協とは、お互いに譲りながら落とし所を見つけていくこと。

そして協調とは、関係者の利益が最大化するよう協力しあうことです。

これまで他者とチームを組んで仕事をする​際に​、「なぜこの人とは話が通じなかったり、議論が平行線になったりしてしまうのだろうか」というような、心理的なストレスを感じた経験がある方は多いのではないでしょうか。そしてその後、チーム内の人間関係が悪化し、メンバーのモチベーション低下や離脱を引き起こしてしまった……そんな経験を持つ方もいるかもしれません。このような悩みは原因や解決策を見つけるのが難しく、対処できずに放置するしかなかったケースも多いでしょう。

京極先生の講演は、コミュニケーションがうまくいかなくなる要因を「信念対立」と定義することで構造化し、解決へのステップをわかりやすく示してくださった、とても有意義なものでした。

まず、①他者との連携で発生するトラブルの多くが「信念対立」であるということを理解すること。

そして人格の問題にせず、②お互いの世界観の目的と状況を整理・共有し、様々な「方法」を柔軟に選択、実行すること。その「方法」の選択肢として「回避・服従・強制・妥協・強調」を状況と目的に応じて試してみること。

これらの明日から実践できる具体的な対策方法を挙げてくださったことは、コミュニケーションのストレスに悩む参加者にとって非常に心強かったはずです。

個人的に、「仕事だけでなく日常生活の中で起きるコミュニケーション上のストレスにも適応できそうな理論だな」と感じました。


まとめ

今大会では、動物に関わる多職種の方々に、野間がトリミング業界に真正面から従事するひとりとして、SIPPOーHAPPOとして取り組んでいることや現場で発生しやすいコミュニケーションエラー、課題解決に向けた提案などをお伝えできました。機会をくださった「獣医コミュニケーション研究会」のみなさま、本当にありがとうございました。

野間の持論として、「自浄作用のない業界に未来はない」というものがあります。

SIPPO-HAPPOのミッションである「すべての犬と人が幸せに暮らせる社会」を目指すには、それを支える動物業界がまっとうであることが大前提です。

トラブルが一切起きない業界ということではなく、法律など守るべきものはきちんと守った上で、トラブルや課題に対して前向きに取り組み、適切に対処できる人の多い業界が実現できればと思っています。

今後もメーカーとして製品サービスを提供しながら、業界意識を変えるための活動も続けてまいります。


長くなりましたが、ここまでお読みいただき、ありがとうございました!


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