【ひなた短編文学賞・佳作・ティーンズ賞】太陽の粒/ 相川朱里
23年6月、「生まれ変わる」をテーマとした、初めての短編文学賞「ひなた短編文学賞」を開催致しました。(主催:フレックスジャパン(株) 共催:(一社)日本メンズファッション協会)
全国から817作品の応募を頂き、その中から受賞した17作品をご紹介いたします。様々な"生まれ変わる"、ぜひご覧ください。
【佳作・ティーンズ賞】太陽の粒/ 相川朱里
朝起きたら、目元が腫れていた。まだまだ寒さの残る三月の初め。ひなたは氷のように冷たい水で顔を洗った。
昨日三年間付き合っていた彼氏に振られた。他に彼女がいたらしい。二股をかけられていたのだ。昨日はさすがにショックだったが、一晩寝て起きてみると意外に落ち着いていた。今日は日曜なので会社はない。
まず連絡先を、次にスマホに入っている写真を容赦なく消していく。あらかたデータ上にある彼の痕跡を消し終えると、部屋に目を向けた。三年間も付き合っていると彼からもらったプレゼントもそこそこ溜まってくる。お揃いのキーホルダー、バッグ、洋服などなど。この先も使えそうな物以外は捨てるのと、売るのとで分けていく。このバッグなんてそこそこ高く売れそうだ。
昨日までは全部思い入れがあったけれど、今ではただの物。そう簡単に割り切れる自分に、ひなた自身が驚いていた。もう少し引きずるかと思っていたけど、そんなもんだったと言うことだ。
順調に片付けていたひなただったが、洗面所を片付け始めて手が止まった。引き出しからネックレスや指輪がじゃらじゃら出てくる。
ひなたはその中の一つを鏡に映した。
彼からもらったネックレスだった。ひなたの名前に合うような黄色に反射するシトリンが揺れている。もちろん身につける気にはなれないが、なぜかこれだけは捨てる気にも売る気にもなれない。このネックレスにそんなに思い入れがあるとは思えなかったが、わからないものだ。とりあえず保留ということにして、先に他の片付けを済ませてしまうことにした。
ひと通り片付けが済み、ネックレスを手に持ち、ベッドに腰を下ろした。多くのものを捨てたり、売ったりしたので、いつもより部屋が広く感じる。視線を少し上にずらすと、可愛らしいお人形と目があった。ひなたが小学生の頃から大事にしているリカちゃん人形だ。今でもたまに、髪をとかして、服を着せ替えてあげている。
ふと思いつき、ネックレスをリカちゃんの髪に当ててみた。リカちゃんの茶髪にシトリンがよく映えている。ひなたはネックレスのチ
ェーンを切って、シトリンをピンに接着した。少し雑だが人形の髪飾りにしては十分であろう。
完成した髪飾りをリカちゃんにつけてあげる。うん、いい感じだ。行き所のなかったネックレスが思わぬところに落ち着いた。ネックレスの形のままで置いておくと、彼にまだ未練があるようで嫌だったが、形が変わったことでそんな気も全然しない。
申し訳ないけれど、昔の恋はリカちゃんに背負ってもらって、自分は新たな恋に進まなければ。シトリンがリカちゃんの髪の上で、まるでひなたを照らす太陽のように輝いた。
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