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人生最高のレシピ

感動している。
モーレツに。

僕がいつか編集したいと思っていた
理想のカタチはこれだったのか!
と思って泣きそうになってる。

その一冊は、とあるレシピ本だ。

30そこそこの頃。僕は一冊のレシピ本の編集をお手伝いすることになった。
そのお仕事で僕は、テーブルコーディネートやフードスタイリングの大切さなどいろんなことを学ばせてもらった。
それはそれは貴重な経験をさせてもらったのだけれど、一方で、ある悶々とした気持ちを抱えてしまった。
それはレシピというものの根幹を問うとても大きな問題だったから、当時の僕にはどうしようもなかったのだけれど、いつか僕が思う理想のレシピ本をつくれたらと強く思った。
しかし、それはずっと叶わないまま、この一冊に出会ってしまった。

あの頃僕がそんな風に思ったきっかけは、デザイナーのナガオカケンメイさんのお誘いで、料理家の長尾智子さんのお家に伺わせてもらったからだ。
緊張する僕に長尾さんは、長尾さんの代表作的レシピ本『ベジマニア』に掲載されていた「にんじんのロースト」を作ってくださったのだけれど、その際に長尾さんはこんなことをおっしゃった。

人参一本って言っても大きさや形、季節によって味も違うし、塩加減ひとつとっても、その日の気分や食べる人の好みによっても変わるから、レシピにするときに、小さじ何杯とか何gとか決めてしまうことに違和感がある。

実際目の前で、感覚のままにオイルや塩を加え料理される長尾さんの姿と、その結果のとんでもなく美味しい料理に心底感動した僕は、こういうセンスをもって料理をつくることが苦手な人のために存在しているレシピの使命と、料理家さんのリアルとの間にある葛藤がとても深く刺さった。

だからこそ、当時僕が編集に携わらせてもらった、とあるレシピブックに書かれたオリーブオイル大さじ1、レモン汁大さじ1/2、にんじん(小)1本、みたいな表記のすべてが嘘に見えて悶々としてしまったのだった。できることなら分量のすべてを「適宜」と表記したかった。

しかしみんな、その「適宜」がわからないから、目安が欲しいのだ。そんなことはわかっているけれど、そこで150ccと書けば、140ccではだめになる世界が僕はつらかった。だからきっと僕はそこに対する何かしらの自分なりの解がない限り、レシピ本は二度と作らないだろうなあとも思った。

そこから十数年。大好きなサウナで沐浴ならぬ黙浴しつつテレビを見ていたら、2021年で第8回を迎えたという「料理レシピ本大賞 in Japan」の受賞会見の映像が流れた。そこに映ったその料理家さんの姿を見て、僕は全身に稲妻が走った。

なんとその著者は、タレントの滝沢カレンさんだった。

受賞したのは『カレンの台所』という一冊。滝沢カレンさんの独特のアテレコナレーションをテレビで見たことがある人も多いと思うけれど、まるで異世界文学な彼女の言い回しがレシピに? と、僕はサウナを出てそのまま近くのブックファーストに駆け込んだ。まるで僕を迎えるように店頭に面出しされたその一冊を持ってまっすぐレジに向かい、そのまま併設されたカフェでぺージを開いた僕は、含んだコーヒーを吹き出しそうになるくらい幸福な気持ちになった。あまりの感動に身体が爆発して飛んでいきそうなくらいだった。
「これだーーーっ!」と叫びたかった。
編集さんの仕事、素晴らしすぎる。これこそ僕がずっとずっと求めていたレシピ本だ。

とにかく買って読んで欲しいけれど、まずはその一部を体感してもらいたいので、以下版元さんのページから、唐揚げのレシピだけでも読んでみて欲しい。才能がもはや暴発してる。

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