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【在校生&卒業生進路インタビュー】憧れの劇団四季への就職を実現 「舞台衣装」に賭けて文化学園大学へ

「劇団四季でミュージカル創りに関わりたい」
そこから逆算して進学先を選び、実際にこの春劇団四季に就職することが決まっているのは、2019年度卒業の髙田果歩さんです。

子どもの頃から舞台やミュージカルが好きで、ご家族と一緒によく鑑賞していました。好きなことを真っ直ぐに追いかけ、憧れの仕事を手にした髙田さんに、進学先を選んだ経緯や大学での学び、自由学園時代で印象に残っていることなどをうかがいました。

◆ 舞台を創る人になりたい! 可能性で選んだ「舞台衣装」への道

髙田さんは、幼い頃から手を動かしてものを創ることが好きでした。幼稚園の時の将来の夢は、「大工さん」だったというから驚きです。

「当時は身近にあったものが『家』だったので、家を建てる大工さんになりたい、という単純な発想だったと思います。それが小学生になり、舞台を見に行くようになると、今度は『舞台を創る人』に変わりました」(髙田さん)

高校生になっても、髙田さんの舞台やミュージカルへの愛情が途切れることはありませんでした。ものづくりも変わらずに続けていたため、最初に将来の職業として想定したのは、舞台の「大道具」でした。

「高2の夏休みに、舞台大道具の専門学校の『体験授業』に参加したんです。その時に学校の方が、『最近は女性でも大道具を希望する人が増えているけれど、やはり力仕事的な要素も大きい。現場は男性を採用したがる』と話していたんです。

実際に、舞台装置を運ぶ経験をしてみて、確かにすごく重いなと感じました。体験授業の参加者は全員女子でした。だから、『女性だけでは成り立たないのかもしれない』と納得した部分もあって。それで、舞台衣装についても検討し始めました」

女子部では中等科・高等科を通して「裁縫」に力を入れています。生徒全員が、布を裁断するところから洋服を作ります。服作りにも楽しさを感じていた髙田さん。そうした経験がアドバンテージになるのではないかと考えました。

「私はどうしても舞台に関わる仕事に就きたかったので、少しでも可能性の高い方を選んで、そちらに賭けたいと思いました」

淡々と物静かに語る髙田さんですが、言葉の端々から舞台への熱い想いが伝わってきます。

◆ ご家族の言葉で決めた挑戦

新たに舞台衣装を学ぶ専門学校や大学も選択肢に加え、進路先を考えていたところ、その後進学することになる「文化学園大学」を見つけます。そこには、舞台衣装デザインを専門にするコースがありました。

演劇やミュージカルに加え、コンサート・テレビで使う衣装の制作を希望する人が多く通っているといいます。劇団四季に就職している卒業生も多く、「ここなら夢に近づけるのでは」と感じ、志望校の有力候補になりました。

一方この頃、「本当に舞台衣装の道に進んで大丈夫なのだろうか」という不安も抱いていたといいます。

「舞台関連の仕事は倍率が高く、なりたいと思ったからといって誰でも叶うわけではありません。特に劇団四季は人気があるので、難しいのではないかとも思いました。それに、身近にその職業に就いている人もいません。仕事内容の詳細がよくわからない状態でもあり、どんどん心配になってしまうんですよね」

髙田さんの背中を押したのは、ご家族のアドバイスでした。

好きなことができるのは良いことだし、たとえ舞台関連の仕事ができなかったとしても、文化学園大学で学べば手に職がつくから、将来いろいろな仕事に応用できる。そんな言葉をかけてくれたのが大きかったですね。

それで私も、『服飾は元々好きだし、もし舞台がダメでもファッション業界で働ければいいかな』と考えるようになりました」

悩み迷った時期を経て、最終的に受験を決めたのは高等科3年生の夏休みでした。希望する学科に公募制推薦があったことから、それに向けた準備を開始。推薦書・志望理由書などを作成し、11月に提出。その後面接試験に臨みました。

結果は無事合格。2020年春、「劇団四季」を見据えた、髙田さんの舞台衣装への学びが始まりました。

◆ 制作に明け暮れた大学時代

大学生活では、実際にどのような学びを経験したのでしょうか。

「大学1・2年は、服づくりの基本について学びました。実際に制作しながら縫い方を覚えたり、座学で服装の歴史を学んだりしました。

3年生からはそれぞれの専門コースに分かれます。私が進んだ『舞台衣装デザイナーコース』では、3年生でファッションショーを行うことが特徴だったんです。実際に私も舞台衣装をデザイン・製作し、ショーに臨みました。

その他の授業でも、3年生以降はほぼ実技(制作)になるので、ニットや帽子、造花など、常に何かを作っている状態でしたね。でも、それ自体はとても楽しく、苦になることはありませんでした」

さらに4年生の卒業制作では、「学科全体で1時間ほどの舞台を作る」という課題が出され、髙田さんのコースは舞台で演技する人の衣装を制作しました。ここでは、仲間とともに一つのものを作り上げる苦労も味わいました。それぞれ作りたいものが異なる中で、話し合いながらすり合わせていくことの難しさを実感したといいます。

実際に髙田さんが制作した舞台衣装。

そうしたことも含めて、実践的な経験から多くの学びを得ることができました。

◆ インターン・アルバイトを経て劇団四季へ就職

髙田さんと劇団四季の最初の接点は、大学3年生の夏休みのインターンだったそうです。そこで実際の仕事の一端を体験しました。

「舞台の裏に連れて行ってもらって、公演で使っている衣装を直すなど、実際の仕事に近い経験をさせてもらいました」

髙田さんは大学でもミュージカルサークルに所属し、衣装作りを担当。そこで舞台を何度か経験していたこともあり、プロの劇団の現場に入っても、しっかり役割をこなすことができました。

インターンをきっかけに、その後はアルバイトとして劇団四季に関わるようになります。そして、ますます「ここで働きたい」という気持ちを強くしました。

舞台関係の就職活動も、通常のそれと同様に大学3年生の3月からスタートします。書類選考や面接などを経て、見事採用に至った髙田さん。春以降の抱負を訊ねると、「コミュニケーションを一番大切にしたい」という言葉が返ってきました。

「劇団四季でアルバイトをしていて感じたのは、きちんと話し合いのできる人が多いな、ということです。

現場には、とにかく毎日たくさん電話がかかってきます。他部署からはもちろん、衣装の生地や制作を担当している業者さんなど、膨大な情報が動いているんです。それらを周りとしっかり共有できないと、舞台制作をスムーズに進めることはできません。コミュニケーションはすごく大事だと感じています」

そして、髙田さんはこう続けます。

「私は衣装担当ですが、小道具、大道具、音響・照明担当、さらには俳優さんなど、いろいろな方と協力して仕事をしていきたいです。それが、感動を生む舞台につながると思っています

真剣にインターンとアルバイトに臨んでいなければ、ここまで踏み込んで考えることはできません。改めて、髙田さんの覚悟を感じました。

◆ 「好きなことを好き」と言える環境は貴重

初等部で入学し、高等科までの12年間を自由学園で過ごした髙田さん。当時の環境について、「『好きなことは好き』『やりたいことをやりたい』と言えるのがよかった」と話します。

「私の場合は、好きなことがちょっと変わっていましたが(笑)、普通にクラスでミュージカルについて話していましたし、みんな共感してくれました。好きなことを変に隠したりする必要がなく、堂々と好きでいられる環境は、今思い返せばすごく幸運でしたね」

中等科・高等科では体操部(転回運動部)に所属し、キャプテンも務めました。左から2番目が髙田さん。

その他にも、学校生活の中でいろいろなことにチャレンジできる雰囲気があったと話します。

「クラスメイトは『映画の上映会がしたい』と言って実際に企画し、放課後に開催していました。『これをやってみたい』と提案すると、誰かしら一緒に取り組んでいるメンバーが出てくる感じで。そういう空気感には影響を受けたかもしれません」

自分の好きな道へと真っ直ぐ歩みを進める髙田さん。「これから進路を決める中高生へのアドバイスは」と言葉を向けると、次のように話してくれました。

「学園では、いろいろなことを幅広く学ぶことができました。当時はあんまり興味がないな……と思っても、多様な内容に触れる機会が持てたのはすごく良かったと思います。

音楽系のイベントなどは、実はあまり好きではなかったんです(笑)。でも、今となっては貴重な経験でした。私は専門性の高い大学に進んだので、自分の興味や技術を深めることはできましたが、本当にそれしかやっていないので、だんだん興味の幅が狭まっているように感じることもあります。

広く学べる時間を大切に、たくさんの経験をしてほしいです。それが今後の進路にも生きると思います」

高等科時代のご友人からの依頼を受けて髙田さんが製作したドレス(2023年度自由学園最高学部卒業式にて)。

子どもの頃からの夢を叶えた髙田さんは、2024年春から改めて、劇団四季で舞台を創る一員になります。

一見すると華やかなサクセスストーリーですが、その鍵は、髙田さんの冷静な判断とそれらの積み重ねにあったのではないでしょうか。憧れの場所で仕事をするために、最初に興味を持った大道具から少しでも可能性の高い衣装へと方向転換する。こうした現実を見据えた選択ができたからこそ、狭き門を突破できたのだと感じます。

「好きなことを好きなままでいる」のは、時に難しいこともありますが、環境やご家族の支えがあり、情熱を失うことなく仕事へとつながりました。

多くの人とコミュニケーションを取りながら、いきいきと舞台の現場で働く髙田さんの姿が目に浮かびます。

取材・執筆 川崎ちづる(ライター)


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