見出し画像

ある夏の散文

憧れ、という暴力を理解しながらも、やっぱり、わたしが憧れてたまらないひとたちは、みんな美しい言葉を紡いでいる


__________

文庫本に、鼻をびたぁびたぁと浸してみます
ことばの絡まりが、こそばゆい


券売機に吸い込まれていく千円札、あたしより必死に生きてて笑っちゃった


もっとここにあいまいな嘘が残り続けてもいいよ
そう思えた午前9時、ドアが閉まる音にあなたを感じる


ことばで括られたの、わたし
だからこの世界からことばがなくなった瞬間、消えるね


あなたと空気を共有することでここは安全地帯になる


夏休み
汗がからだにまとわりついて、ちゃんと動物だって思った


ひっくり返ったセミ、君の分まで生きるね
3日後、セミ、10cm移動


世界を信じて自転車漕いでたら、車に轢かれた


君の肥大化した自己愛に飽きたから、タオルケットかけてもう寝ようって言った


あなたの息遣いだけ、真似するね
それくらい、許してね


絶望は長続きしないことが長所
幸せは忘れてしまいがちなのが短所


届かないかもしれないけど、あなたと文通したい
あなたの書く文字に、見慣れてみたい


君にとっての最低な日ばかり集めたインスタグラムがあるなら、ぜひ見てみたいと思う


__________
もがくほどしずむかなしい海だから
力を抜いて浮かんでいてね

木下龍也(2021)『あなたのための短歌集』より

この記事が参加している募集

スキしてみて

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?