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海と川と里をつなぐ、村上さんと“スズキ”さん

森・里・海のつながりを総合的に研究する、「RE:CONNECT(リコネクト)」。このプロジェクトは、専門分野や考え方、取り組みがユニークな研究者たちが集い、市民と一緒に調査や環境保全に取り組む「シチズンサイエンス」という考え方をもとに活動しています。今回紹介するのは、ビッグデータの解析を行うチームに所属する村上弘章さんです。

▶RE:CONNECT公式サイト


村上さんにとって、海はデータの宝庫

現在、村上さんはRE:CONNECTで、環境DNAという技術を用いて海や川にどのような魚がどのくらいいるのかを解明する研究を行っています。大学・大学院時代は分子生物学を専攻し、顕微鏡をのぞく日々を過ごしていた村上さん。博士課程ではフィールドに出て研究したいという想いを抱き、研究室を探している中、偶然紹介を受けた先生のもとで研究をすることに。そこで出会った研究が、環境DNAです。

今まで、魚の種類や数を調べるときに行っていたのは、網で捕まえて数えるか、水中で目視調査をするか。この調査方法は研究者の技術や経験に左右されること、岩陰に隠れている魚などを数えられないことがデメリットとして挙げられます。しかし環境DNAによる調査方法なら、そのようなことと関係なく、水を汲むだけというシンプルな方法でデータ収集が可能です。また環境DNAにはデータを集めることにおいて、別の可能性も秘めていると村上さんは言います。

それは、過去も分かるということ。土壌は水よりも環境DNAの保存が高く、それを分析すると、何年前にどのような生物がいたのか、この環境がどのような状態だったのかが分かるかもしれないと言います。

つまり、水は「今」が分かるのですが、土壌は「過去」が分かるということ。まさに海はデータの宝庫。環境DNAを活用した研究では、多地点でデータを集めることが重要だと村上さんは言います。このことはRE:CONNECTへの参加により現実味を帯びることとなるのです。


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環境DNAを分析するために使用する機械


“スズキ”さんが解明するかもしれない自然のつながり

博士課程を終えて、別のプロジェクトに関わっている時に、指導を受けていた先生のすすめでRE:CONNECTを知りました。実際に村上さんRE:CONNECTに参加して、研究の可能性を広げると感じたことが3つあったそうです。

1つ目は市民を巻き込んで研究するということ。

2つ目は今までフィールドにしていた海だけではなく、森や川、里も研究対象としていること。

3つ目は多種多様な研究者が参加していること。

特に市民を巻き込んで、日本各地の海はもちろん、森や川から環境DNAを取ることができれば、人と自然のつながりの解明もそう遠くはないのかもしれません。

現在、村上さんはその解明をする上で、魚のスズキに注目しているそうです。ある時期になると海から川へ遡上し、ある時期になると川からいなくなるスズキ。より多くの餌を食べるために、川に移動すると考えられるのですが、川が豊かであるためには周辺環境も良くてはならないはずです。

つまり、間接的に森や山が豊かではならないという条件が必要だということ。村上さんは、「そのような意味でスズキが海と川、森や里をつないでいると言えますね。」と語ります。

また村上さんが感じているのは、多種多様な研究者との協働の可能性。今まではそれぞれの研究領域は、その領域の中で研究を進めることが多かったそうです。

しかし、RE:CONNECTはユニークな経験や知見を持った研究者たちが連携することで、ブレイクスルーできる可能性が高いと語る村上さん。また人工知能やビッグデータなど、最新の技術を導入していることも有意義だと言います。

そもそも地球や環境を理解するには多面的にアプローチする必要があり、環境に関わる研究だけではなく、地理学や心理学のアプローチも時には必要な中、RE:CONNECTにはさまざまな研究領域の方々が集います。今まで取り組んできたこと、そして新たに取り組むこと。その全てに可能性を感じているそうです。

市民と研究者で、モザイク壁画を作るように

これからRE:CONNCTで取り組みたいことを喩えると、モザイク壁画を作ることに近いかもしれないと語る村上さん。各地での環境DNAのデータと、漁獲データや水質データなどがどのような関係にあるかという切り口から、新たに見えてくるものがあるのでは?と考えています。

それは、1つのデータをひとつだけを見ると何か分からないけど、その全体を見ると何が描かれているのか見えてくるモザイク壁画のように。

RE:CONNETに参加して、市民に環境DNAの採取の仕方を教えて、市民と一緒に研究を進める取り組みも行っています。それが高知県にある嶺北高校との高大連携プロジェクト。嶺北高校公営塾「燈心嶺」の生徒さんたちと一緒に地元の吉野川と早明浦ダムの環境DNAの調査を行ったそうです。


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小学生のイベントで海の生物の特徴を伝える村上さん

市民と一緒に研究を進めることと同じくらい、体験をする機会の提供も大切にしています。例えば小学生向けのイベントでも、海の生き物に実際に触れること、海では何が危険なのかを身をもって知ることなど、子どもの時に積むべき経験を積むことを重視しているそうです。

また調査の時、海に潜る際にビデオを回して、海の中の様子を発信する活動も行っています。将来、市民の方々と研究調査を行えるように、さまざまな準備をしている最中。

村上さんは、人と自然のつながりを解明しながら、今日も自然とつながるきっかけを市民の方々に届けています。




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村上 弘章(環境DNA/水産学/生態学)
森里海連環学教育研究ユニット 特定研究員
フィールド科学教育研究センター舞鶴水産実験所(勤務地)

環境DNAは、自然界に放出された生物由来のDNAのことです。これまで、海産魚類の生態調査に本手法を応用するための研究を行ってきました。本プロジェクトでは、引き続き環境DNAを用いて、河川や沿岸域の魚類の多様性を評価します。

また上記を軸に、定期的に行っている潜水目視調査の映像発信や市民参加型の調査を行うことで、地域社会に根ざした「森里海」の研究を行い、その保全をめざします。



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