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自分の目と機械の目で、自然のつながりを解析する地理学者

森・里・海のつながりを総合的に研究する、日本財団×京都大学共同プロジェクト「RE:CONNECT(リコネクト)」。このプロジェクトは、専門分野や考え方、取り組みがユニークな研究者たちが集い、市民と一緒に調査や環境保全に取り組む「シチズンサイエンス」という考え方をもとに活動しています。今回紹介するのは、人工知能を活用するチームに所属する芝田篤紀さんです。

▶ RE:CONNECT公式サイト


芝田さんが、ずっと考えてきた1つのこと

芝田さんが現在、RE:CONNECTで取り組んでいることは、ドローンを飛ばして海岸や河川などに漂着しているゴミの画像を撮影し、ゴミを識別できる人工知能の開発です。

RE:CONNECTに参加した理由を「取り組みはもちろん、理念に大賛成だったことですね。」と語る芝田さん。人と自然をリコネクト(もう一度つなげる)するプロジェクトの理念は、同時に自分の研究領域である地理学の考え方と近く、大学時代から取り組んできたことが、今、文字通り“つながった”とも語ります。

芝田さんは地理学の研究者です。地形を研究するのは地形学、土壌を研究するのは土壌学、植物の群生を研究するのは植生学ですが、地理学はどういう地形でどういう土壌にどういう植物が生息しているのか、また人や動物がどのような影響を与えているのか、そのつながりを研究する学問です。

地理学の視点のベースとなっているのは、場所・空間・環境を意識するということ。その中に、人と自然が有機的な関係があるということを芝田さんは重要視しています。

例えば、気温が高い地域で、そのエリアでは植物がどんな風に生えていて、さらにそこで暮らす人たちの影響が加わって、地域の中に人と自然がどのようにつながり合っているのかを解明するということ。芝田さんは大学時代に1人で研究調査をし始めてから、ずっとこの考え方を大切にしてきました。それは、RE:CONNECTの理念でもあり、大切にしていることでもあります。

この理念に大賛成したと同時に、この考え方を自分1人ではなく、同じ想いを抱く、いわば同士とも呼べる多種多様な研究者集団と一緒に探究していくことを決意しました。


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現在、さまざまな川や海をフィールドワークしている芝田さん


アフリカの原住民に教えられた自然観

話は、過去にさかのぼります。芝田さんは大学、そして大学院時代に人と自然がつながり合っていることを研究調査してきました。

芝田さんの研究スタイルは1人で現地の集落に入って、原住民の方々と一緒に暮らしながら観察するという、参与観察というもの。同じものを食べて、同じ行動をして、同じ場所で寝てみて、実際にその地域に生きる人が自然にどのような影響を与えるのかを自分の目で見てきました。

例えば、大学院時代の話。アフリカのナミビアにある、人が暮らしてもOKという珍しい国立公園を研究調査の舞台にしました。当時、日本人の研究者が誰も研究していないということを聞き、いざナミビアにある「ブワブワタ国立公園」へ。現地で英語を話せるコーディネーターを探して、その村の村長に挨拶しに行くという突撃スタイルで、住むことの許可をもらったそうです。

芝田さんが訪れたブワブワタ国立公園は、人が住んだまま自然を保全する「住民参加型保全」という珍しい国立公園。その公園の中に12の村があるのですが、その中でも人が入っていいエリアと入ってはいけないエリアのほぼ境に位置する、ある種グレーゾーンで暮らす村を選び、研究調査をします。

彼らと一緒に暮らしながら、研究を進めていくうちに、独特な自然観と出会ったそうです。それは、国立公園を燃やすということ。人が暮らしているとはいえ、国立公園で草木を燃やすのはNGです。しかし、国立公園のある場所で暮らす人たちは、草木を燃やすことを「当然」としています。その理由は3つ。1つ目は、草木を燃やすことで地域の自然を生まれ変われさせること。2つ目は、自然を再生させて動物たちが集まる場所を作ること。3つ目は、自分たちが歩くときに邪魔だから。農業や狩り、つまり食べるためではなく、合理的に自然と向き合った上での行動であるということに、芝田さんは感銘を受けたそうです。

政府に対しても、燃やす時期や、燃やしてもこのエリアで火が止まるということなどを伝え、火入れの安全性や有用性を認めてもらっていると言います。それは、あたかもデータ収集をし、合理性を裏付ける研究者のように。人と自然のつながりを暮らしの中に落とし込んでいるということを知った瞬間でもありました。

ゴミを通して、人と自然のつながりを解明するということ

自分の目で見て、肌で感じて、人と自然の有機的な関係を垣間見てきた芝田さん。大学院博士課程の修了が見えてきたある日、「森と里と海の関係を総合的に、そして最先端科学技術を用いて、さらに市民と協力して、解明を試み、環境問題に立ち向かおう」という壮大なプロジェクトの構想があることを聞きます。それが、RE:CONNECTとの出会い。すぐさま説明会に参加し、その理念に感銘を受けたそうです。

今まで自分が経験し、思考してきたことを存分に発揮できそうな場だと感じたこと。そして、自分1人で研究調査を行うスタイルだった芝田さんが、1人の力だけでは到底なし得ない、今よりもスケールが大きくレベルの高い研究ができそうだという強い期待感もあったと言います。何よりプロジェクトの構想に対して、アフリカや世界各国へ調査に行くことと同じぐらい、“ワクワク”を感じたそうです。

環境問題に取り組むとなれば、当然のごとく人の影響が自然にも影響を与えることを意識しなければなりません。その考えは、今まで研究調査を行う上で芝田さんが大切にしてきたこと。自分が海外で取り組んできた経験が、日本の環境問題での取り組みに役に立てたらと思い、RE:CONNECTに参加しました。

川や海に集まるゴミは、里、つまり人が出しています。ゴミの存在は通常、とてもネガティブです。しかし、芝田さんは視点を変えてポジティブに捉えてみたそうです。それは、ゴミを通して森や海、山、川、そして人がどのようにつながっているかを解明してみようと思ったから。そうすることで、人の行動がどのように自然とつながり、影響を与えているのかが分かるのでは? と考えていると言います。

さらにRE:CONNECTでも重視している、市民とつながるということを意識して、取り組んでいきたいと芝田さんは語ります。


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なぜ、ここにこんなゴミがあるのだろうと解明するのも仕事の1つ


市民と研究成果を出してこそのシチズンサイエンス

RE:CONNECTでは科学と社会のつながり、つまり社会との連携も大切にしています。その1つの取り組みとしてあるのが「シチズンサイエンス」です。それは、市民を巻き込んで研究調査を行うということ。芝田さんの場合、人工知能に画像を覚えさせてゴミの識別を行っているのですが、さまざまな地域で自分が住んでいる川や海のゴミの画像を撮影して、画像を提供してもらうことで広域での調査も可能になると話しています。

そこで大事なのが、市民の方々と協力しながらデータを集めて、研究成果を出すということ。また、芝田さんは自分も1人の「市民」であると自覚して研究することも重要と語ります。それは同じ目線に立つということ。「For」でもなく、「To」でもなく、「With」で、人と自然のつながりをもう一度取り戻していきたいと語ります。

研究者同士もフラットであり、お互い違う研究領域の知見を共有しあったり、クリエイターのアイデアや発想を研究で生かしたり、子どもたちの声や意見にヒントを見つけたり。

1つの研究領域では達成できないことを、多種多様な“市民”が一緒になって解明していきたいですと語る芝田さん。今日もどこかで、人と自然のつながりを感じています。


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芝田 篤紀(地理学/自然地理学)
森里海連環学教育研究ユニット 研究員

これまでは主に、アフリカの半乾燥地域の自然と、そこで暮らす地域住民の関係を通して、自然環境と住民生活の相互作用性や共生の在り方について、研究を進めてきました。また日本や東南アジアでは、自然災害の生活環境への影響にも着目してきました。

このプロジェクトでは、地球環境を総合的に捉える地理学の視点と、人工知能など最先端科学技術を用いた新たな手法によって、地球環境問題の解決に資する研究に努めます。

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