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リユースフェス「急速に広がるブランド公式リユース市場。先駆者が語る二次流通の可能性。」

こんちには。リコマース報です。直近10年の間に見られたセカンダリーマーケットプレイスの急成長によって、一気に消費者の身近な存在となったリユース市場。「サスティナブルな社会」をつくる動きが世界的に加速する中、ブランド・メーカーにとって、避けられない経営テーマとなってきています。

海外では「パタゴニア」「リーバイス」といったメジャーブランド、「グッチ」「バーバリー」といったラグジュアリーブランドがリユース事業に参入するなど、急速に事業化が進みつつありますが、日本のブランド・メーカーでリユース事業への参入を発表している企業はまだまだ少数派といえるでしょう。

ブランドやメーカーが今、自らリユース事業を始める意義は何か。そして、リユース事業にどのような可能性があるのか。実際にリユース事業に参入した土屋鞄製造所の笹田さん、パラブーツの横瀬さん、フリースタンダードの張本によるディスカッションから探っていきます。

(聞き手:株式会社NOVASTO 代表 佐藤氏)

REUSE FES 2022 公式サイト

■株式会社アール・ピー・ジェー 代表取締役 横瀬 秀明 氏
1983年インポートシューズ卸WFG入社
1994年に独立しGMTを設立
2000年にParaboot日本支社RPJを設立
日本における海外シューズブランドの黎明期に関わる。これまでに数多くのシューズブランドを日本市場に紹介。これからの時代の「靴店」をつくっている。

■株式会社 土屋鞄製造所 コミュニケーション本部 CRAFTCRAFTS部 部長 笹田 知裕 氏
2012年に株式会社土屋鞄製造所入社。
店舗運営や店舗企画、事業企画を経てアフターサポート部門に異動。修理受付部門運営に携わったことで「アフターサポートの強化」が課題であると認識。現在は「商品が永く使われること」「ユーザーに寄り添うこと」をベースにした新しいメニューの立ち上げに取り組んでいる。

■FreeStandard株式会社 代表取締役社長 張本 貴雄
2007年クルーズ入社。
モバイル求人事業やネット広告事業を経てブログ、バズマーケティング、コスメECサイト、モールなど複数の新規事業立ち上げを行い、 2010年に取締役に就任。
2012年にネット通販事業「SHOPLIST.com by CROOZ」を立ち上げ、ファッション通販モールとしては、後発ではありながら5年で250億円規模の事業へ成長させる。
2020年クルーズ取締役を退任。同年にFreeStandardを設立。

※この記事は、2022年9月1日に開催したREUSE FES 2022のセッションから一部を抜粋してお届けしています。


リユース事業を始めた理由とは

――本日はよろしくお願いします。早速ですが、土屋鞄製造所さんは、そもそもなぜリユース事業を始めようと考えたのでしょうか?

笹田:6年程前に、アフターサポート部門でお客様の商品を修理していたのですが、お客様からの問い合わせが修理に限定されていないことに気が付きました。購入後の使い方や、ケアの仕方など、購入後のアフターサポート全般を担っていると感じたんです。そんな中、もっとお客様に提供できるサポートをメンバーと一緒に考えたときに、ライフスタイルの変化などによって「まだ使えるけど自分ではもう使わない鞄」を押入れの中にお持ちの方って意外と多くいるのではないか、という仮説が出てきました。

弊社は修理を長年やってきているので修理能力はありますし、直営の店舗や販売スタッフといったチャネルもある。であれば、使わなくなった鞄が出てきた時の「手放し方のサポート」として、リユース事業のニーズがあるのでは、と考えました。

時流が手伝った部分も多少あります。私自身がSDGsという言葉を2020年の秋ぐらいからよく耳にするようになって、二次流通まで視野に入れたものづくりに取り組む必要性を感じていました。ものづくりの会社として、作る責任や使う責任をどう果たしていくべきか、という議論とも重なって、リユース事業に辿り着きました。

――なるほど。顧客や時代のニーズが見込めたとはいえ、正式なサービスとしてリユースをやるという意思決定は中々難しいようにも思いますが、どのように行っていったのですか?

笹田:やはり収益性の判断は難しかったです。 きちんと収益が出ないと続けられないので、最初は修理自体の収益性の見直しから始めました。修理価格の改定や納期変更、職人育成計画など、諸々の見直しを具体的に取り組み始めたのが2021年の4月頃です。「土屋鞄製造所のアップサイクル事業」として社内で共通言語化を行い、半年間の準備を経て1回目の商品引き取りを行いました。その後、同年10月にポップアップ企画として自社店舗で販売したという流れです。

――パラブーツさんはいかがでしょうか。そもそもなぜリユース事業を始めようと考えたのですか?

横瀬:靴の業界でリペアは一定の市場規模がある領域です。中でもパラブーツは長く使って頂ける商品で、修理に関する相談が多いブランドでした。修理ニーズが多いということは、「個人で長く使う」という範囲を超えて、リメイクして再販できる可能性もあるなと考えたんです。ジャンルによっては、新品よりも中古の方が魅力的なこともあるじゃないですか。パラブーツやトリッカーズなどのブランドはそういった、時間をかけることによって魅力が増すジャンルだと思い、リユース事業を開始することにしました。

リユース事業に対する社内の反応は

――両社ともユーザー起点でスタートしたのですね。ただ、メーカーとしては新しいものを買ってもらわなくてはいけない、という意識があると思いますし、ブランドが毀損されるのでは、という意見も出そうなものです。実際、社内の反応はどうでしたか?

横瀬:めちゃくちゃ反対されました(笑)以前から、「車に中古車ディーラーがあって、なんで靴に中古ディーラーがないのか」みたいな話は社内でもしていたのですが、いざショップのスタッフを含む全社の声を聞くと、「中古の靴を売ったら、新品販売に弊害が出る」という意見がたくさん出ました。9対1くらいで反対が多かったですね。
ただ、しっかりメンテナンスをすることで、長く使える価値を再発見してもらうことや、 中古で下取りに出せるという選択肢を提示することが、お客様が新品を買う上での付加価値につながる、という考え方をまっすぐ話し続けるうちに、少しずつスタッフからの共感が得られて、挑戦に賛同してもらえるようになっていきました。

笹田:私の場合は、「顧客へのサービスを広げるリユース事業」というアイデアを、たまたますれ違った社長に会社の屋上でついポロッと言ってしまったんです(笑) その時の社長が「それすごくいいじゃん」「早くやろうよ」という反応だったので、むしろ実行準備の方が大変なくらいでした。 前述したポップアップ企画のトライアルである程度形になったので、長期計画を議論する場で事業計画を発表したところ、概ねポジティブな反応でしたね。

――リユース参入に対する反応が全然違うのが面白いですね。リユース事業参入をサポートするフリースタンダードさんがブランドやメーカーと話す中で、リユースに対する反応はどうですか?

張本:多くのブランドがリユース市場にかなり注目していて、「いつかやらなきゃいけないことはわかっている」といった様子です。それでもリユース市場への参入をためらう理由としては、費用対効果が合わないという認識を持っているからだと思います。売上高を成長させる上では商品の型数と在庫量が重要になりますが、リユースは全てが1点もの。この1点しかない商品に投資する価値があるかどうかで考えると、新品より売価が低いからこそ、投資対効果がすごく悪いように感じるわけです。

ただ、「1商品に対するライフタイムバリュー(LTV)」という観点で見ると、実は投資対効果は十分あります。LTVはもともと顧客に対する概念でしたが、リユースを自社で行うと、このLTVという考え方を商品に応用できます。今までは1度新品を販売したら、そこで顧客との関係性は終わりだったわけですよね。ところが、リユースでしっかりとユーザーとリレーションを形成できれば、「収集」→「リメイク」→「販売」→「再度収集」・・・といった循環を作れます。

大量の商品を生産・販売するビジネスモデルではなく、1つの商品を通じて何人ものお客様と接点が持てるようになり、1商品あたりのLTVを最大化させられることが、ブランドが自社でリユース事業を行う価値だと考えています。

――確かに、商品LTVという観点で考えると、トライした方がいいようにも思います。一方、パラブーツで出たような「新品販売への影響」を危惧する声もあるものですか?

張本:多いですよ。ただ、そのブランドの商品が既存のセカンダリーマーケットでどれだけ出品され、どれだけ販売されているかを調査すると、数万点の商品がマーケットプレイスに出ていて、その6〜7割が販売済みであるという事実が見えてきたりします。

ブランドが自社リユースを行う/行わないに関わらず、お客様はリユース商品を買っているという事実がある。このリユース商品を買っているお客様のデータは、自社で取り組まない限り、ブランドに蓄積されません。どういう層の方たちが、なぜセカンダリーマーケットで買ったのかといった、生のエンドユーザーの声がブランドに蓄積されていない点が大きな課題です。リユース品を購入している顧客層が新品販売とは違うケースも多く、リユース事業は自社の新しいファンを獲得する一つの手段とも言える。そんな話をお伝えすると、多くのブランド様が前向きに検討してくださる感覚があります。

消費者からのブランド公式リユースへの反応は

――なるほど。ブランドから見たリユース事業の位置付けがよく分かりました。ちなみに、消費者からのブランド公式リユースへの反応はどうでしたか?

笹田:実は、あまり想定していなかったことですが、ユーズド品の引き取り時に、お客様の思い出を書いたお手紙をたくさんいただいたんです。「初めて社会人になった時に、自分で奮発して買いました」とか、「出世をした時に憧れのカバンを買いました」みたいな。少し働き方が変わったり、引退されたりして、ご自身では使わなくなったけれど、まだモノとしては使えるカバンを我々に託してくださる。「長く使えたし、土屋鞄製造所で修理してもらって次の人の手に渡るのだったら、このカバンも幸せだって思いました。 ありがとうございます」といった声を頂きました。

張本:めちゃくちゃ素敵ですね!

笹田:はい、もうほんと、泣きそうになりました。改めて、私たちの商品を大切に使って下さっていると思いましたし、土屋鞄の取り組みに共感して協力して下さる方も、思った以上に多かったです。

横瀬:パラブーツはこれからが本番ですが、しっかりメンテナンスすることで「リユースなのにこんなに良いモノなのか」と思って頂ければ、新しいファンが増えていくことにもつながります。買ったけど使ってない商品って、実はものすごい量があるのではないかと思うんです。昔からパラブーツを好きでいてくださっている方と改めてコミュニケーションをとる機会にもなるので、お客様の反応が楽しみです。

リユースを検討していこうと思っているブランドへのメッセージ

――ありがとうございます。最後に、今後リユースを検討していこうと思っているブランドに向けて、皆さんからメッセージをお願いします。

横瀬:中古市場の価値は大きく変わりつつあると思います。 今後、リユース商品に人の手が加わることで価値が上がるようなことが増えていくでしょう。だからこそ、右から左に売っていくのではなくて、どのように付加価値を提供していくか、ということを重視したリユースビジネスを作り上げていきたいと考えています。

ブランドにとってリユース事業は避けて通れなくなっていくと思いますが、その時も、「ただ買い取りました」「ただ売りました」ではない、お客様にとって価値ある独自のリユース商品に磨き上げていくような市場を、多くのブランドの皆様と共に作り上げていきたいですね。

笹田:リユース事業を始めるにあたって、本当にお客様から支持してもらえるのか、私たちもとても悩みました。でも、どれだけ議論しても、結果どうなるかはわからないですよね。私たちの場合は、色々考えた後、最後は腹を割ってお客様に聞きました。「こういうことをやろうと思っているけど、どうですか」というのをアンケートにして、会員の方に聞いてみたんです。そうしたらものすごい数の反響をいただきました。結果、我々が思っていたことと多少違っていて微調整しなければならない点も見つかりましたし、確信を持てた部分も多くありました。

リユースを実施するにあたって悩ましいところを、今のお客様に聞きながら設計することによって、少しずつ共感を得ながら具体化できたと思います。だからこそ、リユースを実施するかどうかお悩みのブランドさんがいらしたら、思い切ってお客様の声を聞いてみることをお勧めします。少なくとも私たちにとってはとても良かったということは、お伝えしたいですね。

張本:私はSDGsというのは、最終的に実現するものだと思っています。 1番最初ではないと。顧客資産をしっかりと蓄積して、自社でお客様の声をヒアリングする中で、自社に合ったリユース事業の形が見えてきます。ブランドが自社でリユース事業を行うことで商品のLTVが高まり、結果として、ヒトとモノが循環するような世の中を作っていけることが、リユースビジネスの最大の魅力だと思います。

私たちフリースタンダードもまだまだ若いスタートアップですが、リユース事業を始動させ、継続的に運営するスキームをご支援することで、多くのブランド、メーカー様と一緒に日本のリユース市場を創っていければと思っておりますので、よろしくお願いいたします。


■Free Standardについて
Free Standardは、ブランド、メーカーが自社リコマースを立ち上げることを支援するサービス『Retailor(リテーラー)』を提供しています。リコマースを本格的に立ち上げる上で必要なスキームの設計からオペレーションの運営に至るまで、シンプルでローリスクな形で実現可能です。

事例も豊富にございますので、お気軽にお問い合わせください。
https://freestandard.co.jp/retailor

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