見出し画像

レイとわたし




私には4歳の息子がいる。
名前はレイ。

レイはまだ、腕のおにくが
ぷくぷくしているというのに、
たぶんもう「赤ちゃん」じゃない。

レイはまだ、
「今日、鬼さんがくる日?」とか
ビビっちゃう癖に。
たぶんもう「赤ちゃん」じゃない。

レイはまだ、
「眠れないからトントンしてー」と
寝かしつけを求める癖に。
たぶんもう「赤ちゃん」じゃないのだ。



少しずつ言葉を増やし、いつの間にか
私たちと同じ

「1人の人間」

ということを、ひしひしと。
伝えて来る。伝わってくる。
母はそれが少し寂しくもあり、
嬉しくもあり。なんだけど

そんな寂しさよりも嬉しさよりも
なにより
ハッとする。「驚き」というのが
1番大きいところ。

今日もレイの言葉にハッとしたんだ。
レイは、たぶん
人間の真理に近い。神様の子だと思う。





5/10





今日の私は
やや難しい案件をいくつか抱えていて。
心はまるで余裕がなかった。
私の顔は「ただいま」の声と裏腹
笑顔と反対のところにあったと思う。

それも無意識だから
本人は気がついていない訳で。

笑顔と反対のモヤを纏って、
私はスマホの画面と睨みあい。
「今、打ち込んでいる文面一つで未来が変わる。」
そんなくらい難しい案件に、正直、本気で
余裕がなかった。

ただ、
そんな難しい案件があったって、
女というのは忙しいもので

お風呂を洗ったり、
夕飯を作ったり、
食器を洗わなきゃいけないんだ。
(当たり前)

申し訳ないが私にはそれがもう、
「うんざり」でしかなかった。
妙に苛立った。

そしてさらに言えばこんな時こそ。
息子という生き物は
お構いなしだ。



「ママ!お絵描きしよう!」

「ママ!かくれんぼしよう!」

「ママ、外にカエルがいるよ!」

「ママ、カエルに餌をあげに行こう!」

「ママ、レタス千切って!」

「ママ、いつお風呂入る?」

「ママ、26の次は?にじゅうなに?」



次々に呼ばれるこれを、
「ママママ光線」とよぶ。



普段で言えば、ニマニマしながら
応じるのだ。
「ママママ」と話しかけてくる
子供らしいレイが
可愛くて、可愛くて、可愛くて、可愛くて。
ニマニマして微笑み、
共に楽しむのが私だ。


だが、今日に限っては違った。


「ママ、今は無理」

「ママ、わかんない」

「ママ、洗濯畳まなきゃ」

「ママ、夕飯作らなきゃなんだ」

「ママ、お皿も洗わないとだし」

「ママ、今日は出来ない」

「ママ、カエルは苦手」



そんな具合。



すると、
あるタイミングで、レイが言ったんだ。




「レイくん、元気がイタイ。」







私は
「やってしまった」と
すぐ、気がついた。

「元気がイタイ。」

その一言に、目の前の大切なものが
失われかけた。
私はすぐ息子の元へ駆けつけた。
つけっぱなしのコンロも、
皮を剥いてる途中のにんじんも放りなげ
すぐさま、レイを抱っこして
理由を聞いた。いや、
私は自分で答えた。

「ごめんね。ママが痛くしたね。

ママが笑ってないのが嫌だった?」






息子はうなづく。






私にとって、どんな難しい案件よりも
難しいのは育児だと思う。   

そして、

どんな案件よりも大切なのは
レイなんだと思う。

それに

レイにとって、どんな難しい案件より
洗濯物より、夕飯より、ママの成功より
大切なのは

ママの笑顔。なんだと思う。

それは私に限ってのことじゃない。
「人間」の真理だろう。


大切なことを教えてくれるのはいつも
レイだ。


それからというと、
私はレイに
「元気を悲しくさせてごめんね。」と伝え
「元気が治るように、一緒にご飯作ろっか?」と。
40分くらいかけておにぎりを3つ作ったし
カエルにも餌をあげた。
0から30までの数字をノートに書いたし
ゲゲゲの鬼太郎の絵も描いた。
かくれんぼもしたし
お風呂では、レイの新曲を聴いた。
私が笑顔であればあるほど、
彼の笑顔は咲いた。それはきっと
当たり前のようで、儚いものなのだと思う。

育児は難しいもののように見えて
答えはいつも簡単で。
たぶんいつも、笑顔のそばにあるものだと
教えてくれたのはレイだ。

勿論
おかげで洗濯は畳めていないし、
明日の準備はできていない。
レイが寝る時間は1時間も過ぎちゃったし
大切な案件も返信が遅れたけど。



レイの元気は、元気になったと思う。







大人には難しくて、口にできないことがあって
レイはそれを簡単にする。

大人が、見て見ぬふりをしていることで、
レイには分かることがあるんだ。

この世界に、レイだけが知っていることが
あるんだと思う。


今日も教わった。


今のレイと過ごせるのは
今の私しかいない。
どんなことよりも、

「大切な人を、大切にしたい。」

そう思うのは悪いことじゃないよね。

いつも有難う。今日もごめんね。
これからもママ、頑張ります。
大切な時間を、大切にできるように。
手を繋いで眠る。

おやすみなさい。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?