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ハッピーエンド


私には5歳の息子がいる。
名前はレイ。

今日はレイの保育園の発表会だった。
序盤、ややぎこちないピアニカ演奏からスタートしたクラスの皆んなとレイ。まんまるほっぺを膨らませながら、慣れない手つきで演奏するきらきら星に、のほほんとしたのが私だった。だがそれも束の間。プログラム2番の合奏は、母的に本日のメインなのであった。息子はここで大役を任されたのだ。合奏曲「さんぽ」にてクラス唯一の「シンバル」を担当していた。

1ヶ月前、「シンバルをやることになったんだよ。本当はタンバリンさんがよかったんだけど」と息子から聞いた時はおったまげた。「パシャーーーーン」と、どでかい音で鳴り響くアレのこと!?この小さい体でアレをやんの?しかも一人で?!?!と。親心としては、しっかり心配したのが私だった。

それからというものの、
同じくクラス唯一の大太鼓を任されたサリちゃん(仮名)とタッグを組み、今日まで1か月間、何度も何度も練習してきたんだ。

レイは、家でも四六時中言った。
「さりちゃんが
「ドン、ドン、ドンドンドン 」って叩いたら、レイが「シャーーン」だよ!ママ?さりちゃんの役やって?」

「ドン、ドン、ドンドンドン シャーン」
「ドン、ドン、ドンドンドン シャーン」

そうそう!こんな感じ!イイカンジ!!
なんて言って。
そんな二人のドンシャンイントロから全てが始まると、レイは言った。やはりそれを聞いた時母の親心が震えてしまった。


そして
いざ本番。

静まり返る会場。真剣な園児の表情。
先生と目を合わせたサリちゃん&レイ。




「ドン
 ドン
 ドンドンドン  シャーーン」


「ドン
 ドン
 ドンドンドン  シャーーン」


その場にいた大人達がひっくりかえる程の爆音。見事なイントロからお馴染みのメロディーが始まった。愉快な「さんぽ」のピアノメロディに沿って、それぞれの園児たちがつづいた。タンバリンや鈴、カスタネットにトライアングルを豊かに鳴らし曲が進む。そして終盤を盛り上げるように再び、サリちゃん&レイの爆音が加わりフィナーレに向かっていく合奏。そのままラストはそこにいる全員が揃った音をジャンジャン!と鳴らし合奏が終わった。

一瞬シンと静まった会場の中で、一番に拍手を打ったのは私たち夫婦だったかもしれない。
息子とサリちゃんの勇姿に、心はもうスタンディングオベーションだった。いてもたってもいられず、誰よりも大きな拍手をかき鳴らした。

そして今日のハイライトはその後だったのだ。

続いて楽器を置き、歌った合唱でのこと。
「歌えバンバン」の曲中でそれは起きた。
緊張の合奏を終えたクラスのみんなは大好きな「歌えバンバン」をノリノリで歌い進めた。これまたリラックスした元気溢れる歌声で。園児たちの無邪気なエネルギーが会場中に鳴り響いていた矢先。2番に差し掛かって急にレイの隣で歌っていたサリちゃんが、泣き始めたのだ。両手で目を押さえ俯き、わんわんと声を出して泣いてしまった。
会場中に鳴り響く「歌えバンバン」に重なって聞こえるサリちゃんの泣き声。会場の親たちは少しだけ胸を痛くした。そのまま曲がおわり幕が閉まってから私は思った。「もしかしてサリちゃん。大太鼓でどこか失敗しちゃっていたのかな?悔し涙なんだな」と。そして僅か5さいで悔し涙を流すサリちゃんの心の強さに感動した。圧倒されてしまったのが私だった。小声で思わず呟いた。「とても上手だったよ。がんばったし、素敵だった。」隣にいる旦那さんに聞こえるか、聞こえないかくらいの。悔し涙こそ今日の感動だった。

それからプログラムは進み、それぞれの園児たちのお遊戯を見ては何度も涙を堪えて、平気を装うのは大変だった。しばし園児たちから放たれるエネルギーを受け止めることに必死だった。セリフを間違えても、振り付けがバラバラでも、そこにいる全員が活気に満ちていて、誰もが自分を信じ挑んでいた。それが生きることの正解だと、私は目の前の園児たちに教えてもらっていた。
これから先、彼らがどんな成長を見せ、どんな大人になるかはわからない。たくさんの評価を受け、たくさん傷つくのかもしれない。けれども今日こうして大勢の心を動かしたこと。自分に爆発的な力があったこと。自分を信じる心があったこと。忘れないで欲しい。そう願った。

それから最後にハッピーエンドを一つ。
合奏の後の「歌えバンバン」で泣いてしまったサリちゃん。息子から聞いたはなし、サリちゃんは「大太鼓が成功して、嬉しくて泣いた」
って言うからよかった。よかった。本当に、よかったよ。
底知れぬ感動を知った一日。最高の時間をありがとう。今日はそんなところです。

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