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ショートエッセイ集「目に映るもの、うつらないもの」



「足跡」

猫の日生まれ。生粋の魚座。
根っからの慈悲野郎。
それが私である。
あなたの中にある苦しみを
和らげることしか考えていないよ。
そうやってこの世界に
生きた印をつけるんだ。
それが良いことか、
悪いことかは自分が決めることじゃない。
私にはそれしかないように思うんだ。
猫の日生まれ。生粋の魚座。






「サイコパス≒わたし」

とんでもない悪夢を見た。それは医療ミスの現場に立ち会う私だった。一つのボタンを間違えて押してしまった医師。目の前にはガラス張りの部屋に閉じ込められた男女が2人。彼らが上からプレスされて押しつぶされる瞬間だった。死にかけの2人は袋の中に入れられたまま身動きが取れず、訳も分からず潰されていく。身体の肉が押しつぶされ血液の飛び散る音が不気味に響く。私を含めそこに居合わせた数人の看護師が吐き気を催し目をぎゅっと閉じる。そこで画面は真っ暗に切り替わり映像は、私達に向かってすりかわる。真っ暗の画面の中に聞こえるはずのない男女の悲痛な叫びが。全員の脳内に大きくこだましたその瞬間、目が覚めた。私は冷や汗で冷たくなった背中と、無音の深夜に鳴り響く自分の鼓動を感じてしばらく震えていた。本当に経験したかのように、辛くなってどうしてあんな夢を見てしまったのだろう。しばらく考えた。私の人生にあんな経験はないのだから、きっと前前前世から届いたものだろう。答えがないものなんてこの世にはいくらでもある。目に見えない染みついたものほど、取れないものなのだろう。




「レイとわたし」

5歳の息子、レイは「本当は保育園に行きたくないんだよ」と言う。「どうして?」と聞くと、「だって皆んな、レイが好きなyoutuberのこと知らないんだもん。」と言う。それを聞いて私はハッとする。こどもは大人よりも世知辛い世界で生きていること。

この町で生まれたからって、決まった保育園に行き、決まった小学校に行き、好きでもない友人と毎日顔を合わせなければいけない。走りたくなくてもマラソンをしたり、泳ぎたくなくても水着になったり、苦手でも大勢の前で歌を歌い、手を繋ぎたくない人と手を繋ぐ。すごい人や可愛い人が褒められ、できない人は怒られることを学ぶ。彼らは自分の魅力をけちょんけちょんにされながら、毎日を生きているのかもしれない。大人だったら耐えられないよな。すぐ鬱病だよ。本当にすごいことをやろうと頑張っている。だから母は言う。「そうだね。あなたに本当の大切な友達ができるまでママとyoutuberごっこしようね。」いつか本当に友人とペアになって、youtuberになったら。レイは、私のことを思い出してくれるのだろうか。そうだといいと本当は少しだけ願う。




「男尊女卑」

これは私の持論だけど。世の中は、
「母親」に対して、強烈な価値観があると思うんだ。

「母親は、母親らしい格好をしろ」
「母親は、家にいたほうがいい」
「母親は、仕事を諦めろ」
「母親は、夜になったら出歩くな」
「母親は、子育ての全責任を引き受けろ」

みたいなこと。きっとどんなに男尊女卑が薄まっても、「母親」に対する目はなかなか変わらないのだと思う。この世の母親たちが苦しむのはいつも世間のせいだと思う。母親が自分を責めるのは世間のせいだと思う。そう言う風潮のこの世に、母親と父親という性差がなくなったらと願う。

たとえば「母親」じゃなくて、「親」と言い変えてみたらどうだろう。そうしたらこの世の母達はもっと笑って生きていけると思うんだよ。

「親」は、親らしい格好をしろ
「親」は、家にいたほうがいい
「親」は、仕事を諦めろ
「親」は、夜になったら出歩くな
「親」は、子育ての全責任を引き受けろ

誰もそういうこと、言わなくなるだろう。
「母親」も生きやすい世界になりますように。




「平等」

女の生理と、2歳児のイヤイヤ期と
男の性欲は同じようなものだって、ばぁちゃんが言ってた。どれもこれも、1番苦しいのは本人かもしれないね。抑えられないことや、どうにもならないこと、面倒なことにほど愛を忘れちゃいけないよ

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