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優しさの味を知る



昨日、熱を出した。(私が)
朝からなんだか身体が動かず横になると、みるみるうちに体温が上がり、こりゃ参ったぞ。と慌てて午後の仕事をお休みした。身体は震え上がるとともに、身体の中にはごぉーっと音を立て毒が移動していくのが分かった。節々がミシミシとひび割れていくようで、首や肘や、指はあまりの痛みに声が漏れた。必死でポカリを三本飲み切っても汗が出ず、毛布に包まるも足先はキンキンに冷たくて。身体は何時間も震えつづけた。体温計を見ると「39.0」の文字が赤く光ってボヤけた。

それから夕方、私は寝ていることさえ耐えきれなくなり、風呂に入ることにしたんだ。
これが荒治療だということはわかっていたが、熱を熱で制するようなものだと。
勝敗は見事、解熱を勝ち取った。

39°の身体で。湯船にいる間、本当に不思議な体験をした。さっきまであんなにも痛かった身体はあくびを漏らすようにくつろぎ始め、みるみる汗をかいた。それに、ふわっふわの雪塩をこれでもかというくらいに湯船に入れたのが良かったみたい。それまで私の体の中で轟々と(ごうごうと)悪さをしていた「魔」や「邪」を追い払うことができたのだろう。
私の肌は塩味になった。熱は37.0まで下がった。

それから夜。寂しがっていた息子と会話を交わすこともできた。「ママ、お茶飲む?」と幼いながらに気を使う息子に「ありがとう、お茶貰おうかな。」と受け取った麦茶は味が分からずとも、氷が入っていてひんやりして美味しかった。優しさの味を知る。


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1日たってこれを書いているのは夕方。
またもや体温計は赤く「39.0」の文字を照らしている。今日は息子も主人もいない。仕事を休んでしまったひとりぼっちの私がひとり、寝室でポカリを飲み干しても汗が出ないでいる。何時間も身体中が熱くてうんざり、トイレとの往復さえしんどくて声が漏れる。今日はどちらかというと心がすっからかんで、世界中に、この街に、私しか存在しないんじゃないかと思うほど寂しいんだ。こうして人の身体は愛を欲するのだろう。

あまりにも殺風景の部屋にいてもたってもいられず、思い出したかのように窓を開ける。すると真っ白に曇る空から、ひんやりとした風が靡いたんだ。風は私のからだにスッと沁みて熱をさらってくれるみたいだった。
そうして少し冷めた頬を感じながら、窓の外を見て思う。人間の身体はその都度ちゃんと痛くなったり、壊れたり、言うことを聞かなくなったりする。でも何度だって、元通りにしようと頑張るのだろう。どんなにしんどくても朝は来る。
明日、もっと元気になったら息子と麦茶で乾杯しよう。そうしよう。

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