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多飲症と水中毒

こんにちは、管理栄養士Erikaです。

先日、高尿酸血症の栄養相談で「精神疾患があって、水中毒だから飲水を制限している」というお話を伺いました。
具体的には毎日1.2リットルから、1、6リットルくらいに制限されていました。毎回2杯以上は飲めないように蛇口を閉める方法でコントロールされていました。

高尿酸血症の栄養相談では、基本的に尿酸が尿に溶けて排泄される量を増やすよう具体的なアドバイスを行っています。
多動で汗かきなご本人にとっては、現状の水分摂取量ではやや不足気味であることをお伝えしました。
そして、水中毒であれば、血液検査で電解質を調べているはずなので、検査状況について伺いました。
年に1回の健診のみ、血液検査項目は一般健診項目のみ。電解質の検査をしたことはないそうです。
「水中毒」で入院されたお知り合いの話から、自己判断で予防行動をとっていらっしゃる状況だとわかりました。


「水中毒」とは何か

「水中毒」漢字の通り、水を過剰に摂取することで生じる中毒症状です。
主に、低ナトリウム血症やけいれんを生じます。重症になると死に至るため、入院治療が必要になります。

水の飲み過ぎでそんな恐ろしいことが!?

電解質バランスが崩れることで生命に危険が及ぶなんて!!
水をたくさん飲むのを躊躇しそうですね。
でもあまり心配しないでください。
過剰な水分摂取の具体的な量は、1日に何十リットルレベルです。
人間の腎臓が持つ最大の利尿速度は、毎分約16ml(1日約23リットル)なので、これを超える速度で水分を多飲した場合に発作的に水中毒が起こります。
腎の処理能力は個人差がありますが、これを超えると電解質バランスが崩れて、希釈性低ナトリウム血症が生じ、軽症では疲労感、頭痛、嘔吐、浮腫、重症では脳浮腫によるけいれん、錯乱、意識障害、脳浮腫や鬱血性心不全などの身体障害を起こして死に至ることがあるのです。

この病態は、精神疾患患者にしばしばみられます。

原因は大きく分けて3つ

①向精神薬(特に定型抗精神病薬)による副作用の口渇により引水が常習化し、強迫的に飲水が増える。

②精神疾患の病態(不安、焦燥、幻覚、妄想など)から、飲水が習慣化して多飲傾向になる。

③向精神薬の長期使用により、慣性的にドパミンD2受容体が遮断され、視床下部の口渇中枢を刺激することで口渇が強くなります。
そして、中枢性飲水惹起物質のアンジオテンシンⅡへの感受性が亢進し、さらに抗利尿ホルモンの分泌が促進されて排泄が悪くなり、水分貯留を引き起こします。(抗利尿ホルモン分泌不適合症候群SIADH)

気をつけなくてはいけない抗利尿ホルモン不適合分泌症候群SIADH

1日に何十リットルの水過剰摂取がなければあまり心配しなくても良いと紹介しましたが、精神症状の悪化からSIADHを発症した場合は、理論的に計算される量よりも少ない量で、低ナトリウム血症を起こすことが知られています。
精神病院入院患者の10〜20%に多飲患者が、4〜12%に低ナトリウム血症が、3〜4%に水中毒が発生するというデータがあります。

向精神薬を長期使用されている場合は、注意していく必要があるといえます。

水を飲みたくて仕方なくなる状態のことではない

間違えないで欲しいのは、「水中毒」とは、水を飲みたくて仕方なくなる状態のことを言うのではありません。
それは、「多飲症」です。
多飲症で水分の取りすぎによって低ナトリウム血症を起こし頭痛や倦怠感、けいれんを起こす中毒症状が「水毒症」です。
水毒症の診断は、血液検査、尿検査でナトリウム濃度を測定します。

1日の適切な水分量って?

健康な方で、通常の気候と普通の活動量の場合、体重1kgにつき30〜35mlの水分量が目安とされています。
しかし、長時間にわたる運動や炎天下での労働時には、こまめに少量づつ充分に水分摂取する必要があります。
これからの時期は、脱水症を予防する意識を持つことがより大切です。1日に3ℓ以上の水分を摂取する場合は、1〜2本経口補水液を利用して、電解質異常を予防することをお勧めします。

あなたとあなたの家族が笑顔で過ごせますように。



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