1人の知られない涙の話
最近の若者は妙に現実的過ぎると思う。
全て不景気と片付けてしまえばそれまでだが、それでもこんなに冷めた人間が増えているのか。
かくいう私も、例に漏れず冷めた大人になっていた。
小さい頃憧れた幻の生物も、正義のヒーローも研究でいないことが分かってしまった。
がっかりだった。僕はもう、研究に熱意を捧げられない。
そんなある日、オープンキャンパスに来た高校生が言った。
「滝をのぼる金魚はいると思いますか?」
私は驚いた。彼の目は真剣だった。教授として研究の成果を答えた。
彼の目から光が消えた。私は慌てて可能性は捨てきれないと答えた。
すると彼はパァッと輝かせた。
あぁ、この若者はかつての私だ。懐かしい、何と懐かしい。涙が出そうだ。
同時に自分の愚かさに気がついた。何を諦めていたんだ私は。
あの若者に言ったことは、私が言われたかったことなのかもしれない。
彼と別れたあと、走り出した。
「滝をのぼる金魚を探さなくては!」
堪えきれなくなった涙を流しながら、人目を憚らず叫んだ。
願わくば、彼と共に見つけたい。
以上、らずちょこでした。
※この物語はフィクションです。
ここまで読んでくださった皆様に感謝を。
ではまた次回。
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