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即興実験小説「その民族の言葉には」

その文化人類学者は秘境に住む民族の言葉を知るために、これは? これは? これは? と聞いて、まず木や枝や動物の名前を知る。あなたや私は父や母や子もそのうち知る。抽象語については具体的な場面、「親が死んだ時の気持ちは?」と聞けば良い。でもそもそもその民族は悲しいと思わないのだとしたら、親が死んだときに。


子供が死んで悲しむのが母かというとそうとも限らず、ある民族は産気づいた女は里から離れた森に一人で入り、産んだ子の生殺与奪の権利は母ひとりにゆだねられる。赤ん坊が母と遺書に森から抱きかかえられて来たら、一族の人間として迎え入れられる。母が一人で帰ってきたのなら、「生まれずに精霊に戻った」ことになる。子供は生まれていない。人間ではなかったことになる。


その民族の単語には「愛」はない。でも「一緒」「多い」はある。




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縛り無し。時間は多分20分くらい。半分ほんとう。

スキを押すと、短歌を1首詠みます。 サポートされると4首詠みます。