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【詩】ローカル線の旅(猫の多い町)

タタン、タタンと
一駅通過するごとに、猫が増えます
座席につるりと出現して鳴きます
次は七日町、七日町、と鳴きながら
前脚を舐めて顔を洗います

ゴトン、ゴトンと
割り合い強い走行の振動に
小さな首の骨を揺らしながら
窓の外に明るく煌めく
遠浅の海を眺めています

白飛びしたような陽光が
暑いけど冷たく目に刺さります
かき氷がこの辺の名物で
昔は氷室があったようです
暑がりな猫にはぴったりで
よく中で涼んでいるとか

町の花はツバキ、赤い花、
かき氷のシロップにも似た
とくと染み入る赤色です
民家の軒先に「氷」の旗が
揺れているのをよく見かけます
たいてい猫がじゃれかかるので
無残にほつれていますが

下車したら切符は自分で切ります
猫達は降りたり降りなかったり
もちろん彼らはタダ乗りです
駅舎を出て、海風に当たりながら
どこかに人がいないか
探しに行くとしましょう

猫の多い町です
かき氷でも食べようと、木造平家の
ガラス戸をゴロゴロと引き開けると
薄暗がりは無人で、帳場机の上に
白キジ猫が寝そべっており
驚いたようにこちらを見て
七日待て、と言いました