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生ラムで乾杯!【北海道】旅の私小説「喜悦旅游」#17

 北海道の右半分、「端」をめぐる旅。最北端、最東端の2箇所だけだったが、それでも北海道は広かった!全4日間、走行距離、合計「1675・7km」。

 レンタカーを返却したら、「うちの店の走行距離で、最高記録ですよ!」とお姉さんが言っていた。実際、同じぐらいの距離を移動した方もいるようだが、5〜6日は要していたという。


 今わたしは、新神戸でわたしたちがやっている店舗、Raymmaの窓辺でこの原稿を書いている。

 北海道から帰ってきた時は、神戸はまだまだ暑かった。あれから、早2ヶ月。神戸も秋めいて、だいぶ涼しくなった。ちょうど、あの日の本土最東端、納沙布岬で感じた肌寒さと、おなじぐらいの体感だ。

 北海道の旅は、Raymmaが新神戸の店舗に引っ越したばかりの時期だった。わたしは沖縄、盛田さんは北鎌倉、それぞれのサロンで仕事をしながら、慌ただしく引越し、そして新店舗での事業が始まったとき。店を整えたり、Raymmaの前身となった「一般社団法人CENOTE」の決算が重なったり、色々同時進行でやりつつの珍道中だったが、今思えば、本当に行って良かったと思う。

 自分が何によろこびを感じるのか?どんなことをやっていきたいのか?どんな世界で生きていきたいのか?自分の人生を生きるうえで曖昧だった部分が、この旅を通じて少しずつ明確になった。今も現在進行形で、日々あらたに発見がある。

 「端の世界」は、狭い意味でとらえるなら、国境のように、なにかの境界線となる。しかし、そこにいくことで人は「端」を意識する。自分という存在を自分たらしめる「端」とは何か、気づく手助けになるエネルギーが、「端の世界」には流れている。

 わたしが「端の世界」を訪れるたびに感じていた「なにか」とは、自己存在を知るための手掛かりだったのかも知れない。



 北海道の旅に、話を戻そう。

 最後に訪れたのは、千歳の生ラム屋「モンゴル」さんだった。

 1675・7kmを走破してくれた盛田さんと、ようやく乾杯する機会が来たのだ。超・長距離の運転、本当にありがとう!

 目の前で、大将が丁寧にお肉を切っている。盛田さんが、「切ってるとこ、写真に撮っていいですか」と聞く。すると大将は手を止めて、「切ってるとこは取らないでね。企業秘密だから。もう出した皿と、食べてるとこは撮っていいよ」と答えた。

 大将の秘密の味は、どんな味なのだろう。とても気になる。

 ややあって、肉が運ばれてきた。
 「片面15秒ずつでいいからね」

 さっそく肉を置き、「1、2、3…」と数えていたら、盛田さんに「早いんじゃない?」と突っ込まれた。早く食べたいので、思わず数えるペースも早くなってしまうのだ。

 気を取り直して、少しゆっくり目に。
 もう、そろそろいいだろう!

 口に入れる。

 ジュワっ…

 これは…

 「夢の味」だ!


 とろける、それでいてしっかりしている。鮮烈な赤の美しいラム肉!

 無言で、夢中になって、わたしたちは食べ続けた。目の前で、大将は肉を切り続けている。満員御礼、ぎゅうぎゅうづめの客たちに、夢を届けている。

 この瞬間のしあわせ。これを感じきる、よろこび。

 もし人に、この地球に生まれてきた役割があるとしたら、大将は間違いなく、まっとうしている。こんなにも多くの人を、うっとりさせているのだ。

 北海道の旅は、自分のよろこび、自分の境界、自分の役割。そう言ったものの色々を感じられた、忘れられない機会となった。


 そして、旅は終わったのだが…旅の喜びを噛み締めていたら、旅が旅を次々と連れてきた。そして、この旅たちが、数ヶ月も経たないうちに、わたしと旅の道連れを、さらに予想外のところに連れて行くとは、実際のところ、この頃はまだ何も気づいていなかったのである。

 喜悦旅游。

 「游(遊)」という字の起源は、神が船に乗って遊びに行く様らしい。さあ、次の旅も、楽しんで行こう。


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