10年間横山由依を推し続けて


思春期、それは何かに心を奪われることなのかもしれない。
勉強・部活・友情・恋愛。
僕自身、どれもそれなりに頑張ってきた自負はある。
ただ、結局それは一過性のものに過ぎなかった。
勉強を頑張ったのは大学受験まで、部活はキャプテンの任期が終わるまで。
学校の運動会で行われたリレーにて、アンカーだった僕が最後の最後で大逆転を果たした喜びからあんなに熱い抱擁を交わした同級生も、今では全く連絡先が分からない。
クリスマスにデートする約束を反故にしてきた、高2の時にお付き合いしていた女の子は、今どこで何をしているのだろう。

何もかも、過去になった。

ただそんな中、思春期からずっと、僕が魅了され続けた人がいた。
自分でも驚いている。
こんな長旅になるなんて。
こんな人生を変えられるなんて。


僕は丸10年間、横山由依というアイドルを応援し続けた。


初めは、別のAKBメンバーを推していた。(まさかそのメンバーもまだ現役だとは、当時の僕では夢にも思わなかっただろうけど、それはまた別のお話)
そんな中でも、新しく横山由依さんを好きになった理由はシンプルだった。
顔が可愛いから。声や話し方が綺麗だから。
こうして僕と彼女は、グアムで恋に落ちた。もちろんPSPの中でだけど。

その頃、いわゆるゴリ推しメンバーだったため、金銭力も行動力もない純真無垢な地方中学生の僕が応援するには十分な露出があった。知らない間に、在宅オタクとしての土壌が出来上がっていたのである。
初めて全国握手会に行った。たった1枚しかない全国握手券を握りしめ、高鳴る胸の鼓動を抑えながら。
可愛かった。テレビで見るより何倍も。ただそれだけで良かった。

次の選抜総選挙が始まった。”世代交代”の様相を初めてくっきりと成した対象曲にて、彼女は”守る者”にふるい分けられ、そしてメディア選抜から姿を消した。
疑問が生じた。AKBで一番可愛いのに。
焦燥感に苛まれた。僕が支えなきゃ。

当時、僕の心の中で、初めての推しメンと彼女が同率1推しだったのだが、この段階にて横山由依単独1推しになったことをはっきりと記憶している。

ここがすべての終わりであり、また始まりである。

生活に必要となったため、iPhoneを親から買ってもらった。当時はまだ4S。
彼女について調べた。
ここで初めて、彼女が昇格するに至った経緯、フックアップされる中での苦悩、先輩後輩・姉妹グループ問わず愛される人柄。
以後、何人かのアイドル、いくつかのアイドルグループを推すにあたり毎度感じたことだが、表面的な認識からさらに深く「知りたい」と思う熱意、そしてそれを行動に移す作業はこの趣味を続けていく理由になる程、楽しい。
それに特段の意味がなくても、それ自体が楽しかった。
そして、それをすればするほど横山由依さんのことを好きになった。

初めて劇場公演に当たった。初代横山チームA。
今まで出会ったアイドルの”箱”の中でも、1,2を争うほど応援した”箱”。
本当に楽しかった。彼女を慕う、支えるメンバー。そしてキャプテン。
素敵な空間だった。

何回も何回も握手に通った。
レポになるまでもない他愛もない話をした。いつも真摯に受け止めてくれた。
ある時、彼女に「久しぶり」と言われた。そこから何を話すはずだったかなんて覚えていない。
ただただ嬉しかった。それが常套句だとしても。
もう顔を覚えてもらうほど通い詰めるアイドルは、僕の中で現れない。


横山由依さんに人生を変えられた。
ある時、彼女と某作家の対談企画が組まれた。
それを読んだ僕は、その作家が学んだある大学の学部の存在を知った。
自分が学びたいことができる、そしてそれがその後の夢を叶えるための最短距離となり得るとおぼろげながら考えた。
猛勉強した。そして、合格できた。
その後、僕の夢は叶わなかったけれど、この選択をしたからこそできた経験が山ほどある。
きっかけをくれてありがとう。


横山由依さんに人生を変えられた。
情報収集の一環でSNSを始めた。僕と同じように、彼女に魅せられた人がたくさんいた。
今思えば、依存体質の温床だけど、学校でこの趣味を語る仲間に乏しかった僕にとって、確かに一つの居場所となった。
いろんな人に会った。ほとんどが年上だったけど。
同じ趣味を持つだけで、異なったバックボーンの持ち主が集い、語る。
異質で、笑いが絶えなくて、たまに諍いも起きて、でも居心地の良い空間。
そんな環境に知らず知らずのうちに身を投じることができて、普通に生きていれば絶対に巡り会えなかったような出会いをたくさん体験できた。
この趣味の醍醐味は可愛いアイドルと握手をするだけと考えていた当初からすれば、完全に副産物。
だけどいつの間にか、”大切”が増えていった。
人との繋がりをくれてありがとう。



横山由依さんに出会えた意味を考えてみた。
僕たちはなぜ巡り会ったのだろう。

彼女は、夢を追いかけていた。
夢を叶えるために、このグループを選んだ。
遠方から、このグループで夢を叶えるために努力した。
幾多の困難も、自身の真摯な姿勢と、周りの支えを糧に乗り越えてきた。
その姿が、ただただ美しかった。

そして、それに憧れるとともに、僭越ながら彼女を支えたいと思ってしまった。
僕は横山由依さんのことを、「最も喜怒哀楽をともにした推しメン」と称することがしばしばある。
彼女が何かを成し遂げた喜びを、共有してくれることが何よりも嬉しかった。
反対に、彼女が彼女の夢に向かう道中で、不条理に降りかかる困難になんとも形容しがたい歯痒さを覚えた。
彼女が夢に向かう姿を、最後まで見届けたいと思ってしまった。
だからこそ、こんなにも長い旅を続けてこられたのだろう。


最初は、可愛いからという至極単純明快な理由だったのかもしれない。
だけど、それだけじゃ、きっとここまで応援し続けることなんてできない。
横山由依さんに出会えた意味。
それは、夢に向かって汗を流す、真摯な女性の姿を綴った一つの素敵な物語を見届ける喜びを味わうためなのかもしれない。
そして、その物語は、これからも続いていく。

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