第2話


トーキョーの夜空を赤白く発光した流れ星が勢いよく流れていた。
よく見ると、それは流れ星ではなく、天界から堕とされた天使リスタであることは誰も知らない。
高速で落下していくリスタの体は大気圏を突入してから、真っ赤に発光しだした。
いくら天使の肉体とはいえ、高速で落下していく衝撃に体が燃え上がっていく。
リスタの着ている白い布の服はたちまちに燃え上がってしまった。
そして背中についていた——その立派な白い翼にも勢いよく炎が付き始める。
その翼についた炎は一度着火すると、次々とその勢いを増し——、ついにはそのほとんどを燃やし尽くしてしまった。
ほぼ全裸となったリスタの背中には、もはや翼の面影はどこにもない。
あるのは翼があった箇所に、翼の付け根がわずかに生えているだけだった。
なおも高速で落下していくリスタの体は、トーキョーのとある公園の方に落ちようとしていた。


——その公園には一人のOL、山村レイナが、缶ビール片手に暇つぶしの散歩をしていた。
レイナは仕事終わりの金曜日の夜、何もやることがないので、酒を飲みながら公園まで来たのだ。
黒い髪を肩まで伸ばし、白いシャツに黒のスラックス、ブーツを履いたまま、レイナはふうっとため息をつきながら、公園の敷地内にあるブランコの方に歩いて行く。

「ふわああ……今日もやっとおわたああ……もうなんか疲れすぎて食欲もねえわこんちきしょーう……ひっく」

酒に弱いレイナはわずか缶ビール一本で顔を真っ赤にしてこのざまである。
レイナはフラフラと体を揺らつかせながら、ブランコのところまで来ると、すぐにそこに座り出した。
缶ビールをぐいっと飲むと、ブランコをキー、キー、と一人でに揺らし始める。
なかなかに悲しい光景である。

「ふわああ…………ん?あれ?」

レイナは自分のズボンのポケットに入れたスマホが振動しているのに気付いた。
ブーッ、ブーッ、と鳴り続けるスマホを取り出す。
スマホの画面には『たくや』と表示されていた。
レイナはすぐに電話に出ると、口を開いた。

「もしもし?……たくや?どうしたの?」
「ああ……あのさ……話があんだけど」
「うん、どうしたの?」

電話越しのたくやと呼ばれた男の声は何だか機嫌がよくなさそうだった。
レイナはそれを察して、少し慎重に聞いてみた。

「あのさ……俺たち……別れね?」

レイナの揺らしていたブランコが、不意に止まる。
しばらく缶ビールを片手に持ったまま、レイナはその場で固まっていた。

(はあ?)

レイナは突然のこと過ぎて、全く理解ができなかった。

「え?……なんで?どういうこと?」
「いや……前から考えてたんだけどさ……やっぱ地元出たじゃん?レイナ」
「うん」
「それからなかなか会えない日が続いてさ……」
「うん」
「やっぱ俺、このまま会えない日が続くのが耐えられないんよ」
「うん……でもそれは私だって——」
「んでさ」

レイナの言葉を遮るようにたくやは言った。

「俺、好きな人ができたんだよ」

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?