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夢に舞うは胡蝶、現に横たわるは蚕蛾 -1- #ppslgr

月光さえない新月の闇の中、俺が茂みに投げ込んだ石つぶての音に反応し複数の矢が射込まれた。銃弾ではなく、矢だ。

今自分が居るのは新月に加えて、山林奥深くという通常であれば一寸先も見えない闇の中。その暗中を自慢の眼で見透かすと、現代の迷彩とは程遠い古めかしい外套をまとった弓手が、ざっと三名は樹上に陣取ってこちらの動きをうかがっている事が認識できる。

タフな状況だ。下手に銃をぶっ放せば彼らはたちまちこちらに向かって矢を打ち込んでくるだろう、仮に一名落とせても残り二名から狙われる。この暗闇の中で三名ほぼ同時に当てられるかはバクチだ。

何より彼らが何者であり、何のために『すでに廃村となった集落地』に潜んでいるかがまだつかめていない。相手の事が何もかもわからない状況で安易に殺す事は避けたい、少なくとも今この状況では。

音を控えて、足元に転がっていた投げ槍代わりになってくれそうな枝を拾い上げる。多少枝はついているが、ほぼ枯れ落ちているのでこの程度であれば投げるのに支障はないだろう。加えて追加の石も確保する。

(まずは一人捕縛出来ればいい、欲をかく必要はない)

今の自分の目的は彼らが何者なのかあらためる事だ。欲をかいては仕損じる。
平静を保ちつつ、敵の位置を探る。相手はやはり三人。いずれも一般の人間よりも小柄に見受けられる。

ちょうど盾にするのに手ごろなサイズの木に隠れたまま、まずは右側へ石を音もなく放る。茂みの中に落ち込んだ石は当然、静寂の中にあっては大げさな音をたてた。

「……ッ!」

即座に、音のした方へ矢が撃ち込まれる。矢が放たれるのと同時に木の影より左側に脚を踏み出すと、渾身の力で拾っただけに過ぎない枝を放つ。

「……ァ!?」

枝は第二射を構えようとした影の弓持つ肩へ深々と突き立ち、樹上の影を大地へと撃ち落とした。その一連の流れを確認するよりも早く、俺は射止めた存在の元へ踏み込むと地に叩き付けられるよりも早く宙で抱き留める。まるで羽毛の様に軽い。

目的としていた対象を拿捕すれば、迷うことなく闇の中の山林を駆けだす。
平野であれば只の的だが、夜の林とあっては矢を防ぐ遮蔽物などいくらでも存在する。ジグザグと木々の合間を抜けて駆け抜ければ追撃の矢はことごとく木々に吸われていった。

夜駆けと共に、追手の気配は離れていき矢も届く事さえなくなっていく。廃村から十数分も駆ける頃にはあっさりと撒く事に成功した。まだ気は抜けないが、ひとまずは目的達成だ。

人さらいその物の所業とあって余りいい気はしないが、抱きかかえてきた相手を地面に降ろしてやると目深に被っていた迷彩外套を下ろさせる。後ずさる何者かは強張った表情で俺を見上げてきた。

さらってきた相手の容貌は美しく整っており、髪は翠緑のロングヘアーにエメラルドグリーンの瞳。何より特徴的なのはその鋭角にとがった長耳だ。

「夜の廃村でエルフゴッコなんて、いささか趣味が悪いんじゃないか?」

呆れた俺はつい彼女の耳に触れると軽く引っ張ってしまった。取れない。指先に伝わってくるのはすべすべとしたとても触り心地の良い肌の感触。

「なん……だと……?」

恐らくはとても失礼な扱いなのか、目の前のエルフっぽい少女は俺がきいたことのない言語で滝の様にまくしたてた。英語、ロシア語、中国語辺りのメジャー言語では全くない。とはいえ少なくともきつく罵倒されていることはわかる。

「すまん、俺が悪かった」

この様子では伝わるかどうか定かではない物の、何とか落ち着いてもらうべくなだめすかして頭を下げてみる。だが、彼女のご機嫌を取りなすよりも先に別の変化が起きた。

「ア……!?」

肩の傷口を抑えていた彼女の姿が、まるで蛍の様に光の粒子となって解け消える。後には降り積もった枯葉ばかりがのこされていた。

「これはまた、難儀かもしれんな……」

【夢に舞うは胡蝶、現に横たわるは蚕蛾 -1-:終わり:その-2-へ続く

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