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カルニアデス・ラヴァーズ

「どうか、私を喰らってください」
「出来ない」

夏の日差しが届かない路地裏にて、二人は断絶した。
一人は暗緑コートの男、もう一人はくせの強い白銀髪に青黒ゴスの少女。
男のコートは所々破れ、黒い血に塗れていた。

「私が貴方を助けた事が、そんなに大事ですか?」
「ああ、なにより……!」

無眼黒竜が少女の右を行き過ぎて、背後に迫った悪漢を食い散らした。
竜は、男の右腕だった。少女は自身を抱きしめて、震える。

「こんなんでも、心まで化物になったつもりもないんだ、俺は」
「貴方には、私の力は……いらない?私を幸せにする?……バカ、なんですか?」
「かもな!」

足音高く駆け込んでくる連中を、男の腕から吐き出された黒が打ち砕き、朱に交わる。舌打ちする男。

「墨か、使えん!だが何だって能力持ちがこうも!」
「面倒でしょう、同様に私を食べてしまった方が楽、ですよ」
「だからやらない!」

肉片を踏み越えて二人に迫る雑多な悪漢共が、入り口側より突如吹き荒れた鋭利によって、同じ物として仲間入りを果たす。
路地裏は、剣山地獄と変わっていた。

「待ってください、あれは」
「最悪……だなっ!」

剣の森を抜けて、影が来る。音よりも疾く!刃を振るい!
影が突き出した刀は、前に出た少女の寸前で止まった。
少女を抱きとめ、男はビルの屋上まで跳ぶ!墨縄が二人の身を巻き上げていった!

「あれは殺戮嵐。貴方は、私よりもさらに危ない人に追われてません?」
「まあな、だが何とかする」
「無理です、ね」
「何?」

きしみ、路地裏が剣の水晶窟に変われば、地の影は剣の峰を蹴って飛び来たる。蒼天直下にて二人と影は対峙、日の下の影は水墨画めいた黒尽くめで、抜刀した。殺戮嵐と呼ばれた影は、奈落の唸りをあげる。

「終わりだ、魂喰い」

死神とは、目の前のコレなのだろう。
決死の男のあごをさすりながら、侍る少女はささやく。

「私達は、きっと殺される。でも、私を喰らえば、貴方だけは助かるわ」

【続く】

#小説 #逆噴射小説大賞2020

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