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夢に舞うは胡蝶、現に横たわるは蚕蛾 -39- #ppslgr

だが、先史文明の怪生物が詰まったパンドラの水槽は、砕け散る前に済んでの所で踏みとどまった。長期間埋まっていてもなお機能を保全するほど、この揺り籠の強度は高い。

俺とドゥマが足場としていた透明な入れ物は、再度その身を赤く脈打たせると二度目のレーザーを放たんと莫大なエネルギーを上部に集中させていく。
だが、俺達がもう一度斬撃を加えるよりも早くトドメの一撃が届けられた。シャンティカだ。

「もう……いい加減にしなさいよ!」

彼女の怒りがふんだんに込められた矢の一射は、最悪の揺り籠その中央部へと撃ち込まれると崩壊寸前だった透明な器のひび割れをこれ以上ないほど拡大していく。崩壊を予期すれば、咄嗟に飛びのく俺達。

分厚い保護殻は巨大なガラス玉が疲労限界を起こした時の様に粉微塵に四散、降りしきる錆雨と混ざり合いながら大地に打ち下ろされれば、当然の事ながら中身であった大量の奇怪知性体も大地へ落ちる。彼らは自らが生み出した汚泥の中にバラバラとばらけながら落下していった。

「お前ら、油断するなよ!」

ガアムの号令と共にバルダン兵達は先史文明知性体が落着する盆地中央部へと火器を向ける、しかして彼らの残心は空振りに終わった。

蠢く知性体に意外にもトドメとなったのは、今なお降りしきる錆ついた雨だ。この淀んだ水滴がその身を犯すほどに、知性体達は激しく震え、声なき断末魔を挙げては解け落ちていく。溜まりに溜まった汚泥と混ざり合った先史知性体は、雨と混ざり合うと徐々にその色を灰色に脱色していき、その害を失っていった。

「……クルカ、コレ大丈夫な奴?」
「そんなすぐに解析結果が出るわけないだろう、だが当初の強力な融解力は無くなったようだ」

円筒レンズのクルカは、その伸縮する眼を前後させながら既に撃ち切った銃のマガジンと思しき長方形を灰の汚泥だまりへと放れば、ばしゃりと泥交じりの水飛沫が上がる。そして彼の言の通りマガジンは少しも形を変える事無く灰の水たまりにとどまっていた。

「ひとまずは、脅威を取り除いたと考えて良いだろう」

ガアム達が待つ高台の一角に降り立ったドゥマは、厳かに勝利を宣言する。彼の言葉に、諸手を挙げて歓喜するバルダン兵達。
あの古代兵器がなくなった事で彼らもこの地への束縛から解放されるのであれば、さもありなんといった所か。

一方で、元凶と言える俺達現実世界からこの地に侵入してきた黒き塔は、古代兵器との戦闘にもろに巻き添えを喰らったにも関わらず傷の一つも受けてはいない。それは黒光りする御影石の墓標の如く、淀んだ雨の中そそり立っていた。

「俺達はここからが本番だな」
「だね、でも彼らに犠牲者を出さずに切り抜けたんだからまずは良しとしようか」
「その通りだ」

戦いとなれば、少なからず犠牲を伴うのが世の常である。
今回の様に誰も欠けもせずに終わったのは僥倖という物だ。
そんな中、一人シャンティカはまだまだ先の展開があるという現実への疲労感に、しおしおに萎れていたのだった。

【夢に舞うは胡蝶、現に横たわるは蚕蛾 -39-:終わり:その-40-へ続く

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