イドラデモン・アニヒレイト -25- #ppslgr
まじまじ観察すると、顔を出した老婦人は眼を閉じていて、顔を向けている方角も俺達三人からは大分ずれている。初対面の相手にするドッキリでもないだろう、だとすれば元々視覚が不自由と見るべきか。
「はい、ここに来れば仲間に入れてもらえるって聞いてきたんです」
「仲間――ですか?すみません、わたしは主人にここに連れて来てもらっただけで、今だにここがどんな場所なのかも良くわかっていないんです」
自宅の間取りを覚えるのも一苦労で……とこぼす老婦人の様子は、俺の目には余りウソを言っている様には見えない。だが、この階層に住み着いている住人達がいるのは確かなようだ。
「失礼、訪問客などは来られますか?」
「いいえ、いらっしゃる方は近所の方くらいで。あなた達はどちらから?」
「東京の浮北区からじゃ」
「東京から、ですか。きっと、遠かったのでしょう?」
「いーえー、日帰りで来れる距離です」
どうにも引っかかる。俺の疑問と同様にひっかかるのか、ちらりとこちらを見るO・M。
「そう、ですか。おかしいでしょう?わたしはここが日本のどの辺りかさえ把握していないんです。主人はここに居れば大丈夫の一点張りで……」
「ご主人の事、信頼されてるんですね」
「ええ、ええ、わたしがこうなってからも見放すことなく手を尽くしてくれました。ああ、立ち話もなんですから主人が戻るまで中でお待ちになりますか?」
「よろしければ、お願いします」
こちらの返事を待たず、即答する彼女。実際、間違いなく事情に詳しい夫の方にコンタクトを取れば少なからず得られる情報はあるだろう。もっとも、穏便に済む可能性は非常に低いが。
―――――
「さって、どういう事じゃろなぁ」
ほどなくして、俺達三人は古民家の客間と思しき一室に通された。古びてはいるが上等な畳にどっかりと胡坐を組む男性側と、上品な仕草で足を下ろす女性側。家具などは不足しているのか、引っ越したばかりの様に何もない一室だ。念のため、武器の類はそのままに休憩を取る。
「あのご婦人自身は言葉の通り何も知らなそうではある」
「というと他はそうでもない、と」
「じゃろうな。接触次第戦闘もありえる」
「最悪このままワナもありえるだろうな、この部屋はどうだ?」
座り込む前に、J・Qは丹念にこの客間を触診し、床に体重をかけてはギシギシと鳴らすなど、傍目からは奇行に見えるトラップチェックを行っていた。
「結論からいくと、ここ自体もただの和室じゃ。じゃーがー、そもそもこの空間自体が敵の腹よ。身内の一人や二人、連中が切り捨てる気になればいくらでもやりようはある」
「フムン」
居住区画なのは間違いなさそうだが、J・Qの言う通り必要であればいくらでもトカゲの尻尾きりは可能だろう。
「でも、次の展開が来るまでは休憩できる、かな?」
「だな。いっそ敵が手を出してくるまで休憩タイムといこう」
「は~い、R・Vはコーヒーいる?」
「済まないが、ブラックは苦手なんだ」
俺の一言に、ブフゥ、とJ・Qが大げさに噴きだした。
「ふーん、意外!じゃあ帰ったらメープル入りのミルクコーヒーにしましょう!」
「その為には、ちゃんと帰らないとな」
【イドラデモン・アニヒレイト -25-:終わり:その-26-に続く】
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